元国税職員、さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「吾輩は社長である。税務調査はまだない」です。
Twitterで、税務調査に関する情報が流布されているようです。
その内容は、“業界シェアNo1”を掲げるギャラ飲みアプリに国税が調査に入り、その際にアプリの運営会社は登録されている女性の名簿を渡したため、同アプリを利用して稼いでいる女性たちに税務調査が行われている、というものです。“港区女子”といわれ、ギャラ飲みやパパ活で報酬を得ている女性たちの間で激震が走っている模様です。
登録して報酬を得ている人たちは、「勝手に情報を与えるな。個人情報保護法違反ではないのか」と、アプリの事業者に対し憤るかもしれません。しかし、国税の情報照会を受けたアプリの事業者が、それを拒否することは難しいように思います。
それは、従前は任意で行われていた情報照会が、平成31年3月の改正で税法に明文化されたからです。国税庁が令和元年に発表した『情報照会手続の実施に当たっての基本的な考え方等について』を見てみましょう。
※以下、読みやすさを考慮して一部省略しています。
【事業者等への協力要請】
事業者等への協力要請を行うに当たっては、国税に関する調査について必要があるときに、その調査に関し参考となるべき資料情報に限って行うこととし、(中略)協力要請は調査の対象者が特定されていることを前提としたものではない。
【個人情報保護法等との関係】
事業者等への協力要請については、(中略)個人情報保護法上の制限の対象外となることが明確となった(後略)。
また、情報照会にあたっては、いくつかの条件を満たす必要があります。
【情報照会のための条件の例】
イ 収集手段の補充性
照会対象となる情報について、他の方法による収集が困難である。
ロ 申告漏れの可能性
報告対象となる取引が、以下の(1)〜(3)のいずれかに該当する
(1)当該取引の課税標準が年間1,000 万円を超える者のうち半分以上に申告漏れが認められる
(2)国税の申告漏れを生じさせることが推測される
(3)特定取引が、経済的必要性の観点から見て通常であればとられないような不合理な取引形態であることにより、国税の申告漏れを生じさせることが推測される
【照会できる情報】
(1)対象者の氏名(名称)
(2)住所
(3)番号(個人番号、法人番号)
国税側は、なんでもかんでも事業者に対して情報提供を求めることはないけれど、登録者のほとんどに申告漏れがあると考えられるような場合は、放置しないのではないかと推測します。実際、仮想通貨の申告漏れに対し、仮想通貨取引所への照会を経て税務調査が行われていると聞きます。
では、どういう基準で調査が行われるのでしょうか。
たとえば、ギャラ飲みやパパ活に利用されるアプリの事業者に対して国税が照会をかけ、登録者のリストを作成したのち、税務調査が行われるとします。このとき、どのような基準で税務調査が行われるかはわかりません。合理性を考慮すれば、売上が大きい登録者で無申告の者を中心に税務調査が行われるのではないでしょうか。
また、ネット上では「査察が来る」という投稿を見かけますが、これは「マルサ」とも呼ばれる国税局査察部と、一般的な税務調査が混同されているようです。
アプリを利用して報酬を得ている場合は、査察部による強制調査ではなく、一般的な税務調査が行われることがほとんどだと思います。もちろん、規模が大きく不正がある場合は確定申告をしていたとしても査察部の調査が行われる可能性があります。
一般的な税務調査が行われるのであれば、管轄の税務署から税務調査の依頼がある、あるいは、資料を持って税務署へ来るように促されます。
本来、確定申告が必要なのに申告をしていない、いわゆる「無申告」であれば、加算税によって納める税金は増えます。少ない金額だから調査はないと考えている方は、結果的に負担が増えてしまうかもしれません。
どうしたらよいかわからない場合は、税理士さんに相談するか、管轄の税務署に行きましょう。いつかくる税務調査に怯えるより、正しく申告して日々を楽しく生きたほうが賢明だと個人的には思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)