福岡県大牟田市が、2004年に亡くなった女性の金融口座から18年間にわたって固定資産税を引き落としていたことが発覚。その金額は18年間で百数十万円程度とみられるが、同市以外でも自治体が課税額の計算を間違えて住民から固定資産税を過徴収している事例が後を絶たず、自治体による税金徴収への信頼が揺らぎつつある。
今回の大牟田市の事例は、女性の死後に関係者から死亡届が出されたものの、女性には相続人がおらず口座も凍結されていなかったこともあり、市の税務課が課税を一時止める課税保留手続きをし忘れていたというもの。女性の遠戚者が気が付いたことで市が事態を認識するに至ったが、過徴収した税の還付を受けるためには女性の相続財産管理人が選定される必要があり、そのためには利害関係者が家庭裁判所に申し立てる必要があるという。
固定資産税の過徴収は、今に始まった問題ではない。14年、埼玉県新座市が27年間にわたり住民から本来の金額より約2倍の固定資産税を過徴収していたことが発覚。課税対象者は固定資産税を払うことができずに自宅を売却していたこともあり、ニュースでも大きく取り上げられた。さらに新座市が調査した結果、過去20年間で約3000件、計3億2000万円の過徴収が発覚。事態を重く見た総務省は、自治体に固定資産税の確認を正確に行うよう通知したが、その後も課税ミスは続いている。
最近の事例としては、大阪府泉南市は今月、21~22年度の固定資産税・都市計画税で649件の課税額に誤りがあったと発表。広島県廿日市市は昨年11月、有料老人ホームなど4施設の土地の固定資産税と都市計画税の課税額を誤り、土地を保有する個人・法人から計3734万円を過徴収していたと発表。栃木県那須塩原市は昨年7月、17年間にわたり納税義務者とは別人の口座から固定資産税を誤って引き落としていたと発表。埼玉県川越市は昨年5月、1996~2021年度に計18人から過徴収し、うち1996~2001年度に計1000万円を過徴収した2人について法律に規定がないため返還しないと発表。福岡県久留米市は昨年11月、農業用施設用地を宅地として評価していたため03年度以降に65人から固定資産税を計6700万円過徴収していたと発表。今でも毎月のように過徴収が発覚しているという状況だ。
人手不足、DX化の遅れ
「課税額の計算間違いの原因は、路線価を算出する基になる鑑定標準価格の修正漏れや、本来とは異なる路線の路線価を基準にしてしまうというミス、宅地用や農業用など課税地目の間違い、職員によるシステム入力ミス、なかには市町村合併に伴う事務作業の際のミスなど、人為的なものが大半。だが、根本的な原因は、課税額算出の複雑さと職員の人手不足にある。たとえば住宅の一部増改築などがあると、増改築部分は別途課税額を算出しなければならないし、土地の用途によっても課税額は変わる。また、納税者の申告内容が正しいかを確認するために現地調査を行うケースや、納税者が国の非課税措置や軽減特例の無理解から登記変更をし忘れているケースもあり、自治体によってはまったく人手が足りていない。
納税者としては、まさか自治体から送られてくる納税通知書の金額が間違えているとは考えないので、おかしいなと感じたら、きちんと自治体に確認することが大切。ただ、納税者からの問い合わせが増えることで、その対応のためにさらに自治体のマンパワーが足りなくなりミスが増えるという悪循環も生じかねず、頭の痛い問題といえる」(自治体関係者)
固定資産税の徴収をめぐるミスが絶えない原因について、元国税調査官でYouTubeチャンネル「元・国税調査官【税金坊】」を運営する根本和彦氏はいう。
「税務に関するDX化が進んでいない点が大きな要因の一つではないかと推察される。個人の税金に関する情報が外部に漏洩してはいけないという考えが最優先され、業務のシステム化が遅れており、かつ自治体の内部で税金を扱う部署と他部署の情報連携が不十分なケースもある。また、所得税や法人税は個人や企業が税理士のチェックを受けながら納税手続きを行い、さらに税務署がチェックするが、固定資産税は自治体が税額を決めるためチェック機能が働かず、それが多くのヒューマンエラーを生むことにつながっている。加えて、担当者の人手不足という問題もあるだろう」
(文=Business Journal編集部、協力=根本和彦/元国税調査官)