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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

団塊世代が一斉に後期高齢者に…親の家の相続“大混乱”時代、固定資産税等が毎年20万円?

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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「Getty Images」より

 団塊の世代は通常、1947年から49年に生まれた第1次ベビーブームの世代といわれ、作家の堺屋太一が命名したといわれる。この世代は出生数で合計805万5000人にも及ぶ。ちなみに2017年から19年の出生数は合計で272万9000人であるから、そのボリュームの大きさがわかるというものだ。

 団塊世代の特徴はその数に物を言わせて、大学紛争に始まり、企業に就職すれば、ころりと体制側について猛然と働いて日本の高度成長を牽引、平成バブルを引き起こした世代だ。年金も潤沢に懐に収め、金融資産保有額も多く、引退後も国内外の旅行などで元気に動き回っている。現在でも団塊の世代は617万9000人が生存していて、シニア世代の代表的な存在となっている。

 2022年からこの団塊世代が75歳の後期高齢者に仲間入りし、24年末には全員が後期高齢者となる。どんなに元気でも人間には寿命がある。そしてこれからの問題として大きくクローズアップされてくるのが、団塊世代のおよそ4分の1が住んでいるといわれる首都圏1都3県での大量相続の発生である。

確実に請求される固定資産税や都市計画税

 親が亡くなり、相続税を計算するときは、緊張感が高まるものだ。親が実はいったいどのくらいの資産をもっていたかなどということは、高齢化が進み、親子の距離感が遠くなるにしたがって、子供がまったく把握できていないケースが多くなっている。いざ相続財産が確定して、親の家を引き継ぐことになった場合、親の家の価値というものがいったいどの程度のものなのかということを正確に把握している子は意外と少ない。

 あたりまえだ。不動産屋でもないかぎり、親の家がどの程度の市場価値があるのかなど考えたこともないはずだ。ましてや、30年前あるいは40年前に父親が買った戸建て住宅やマンションが今どの程度の価値を持っているかなど、知るはずもないというわけだ。実はこのことが今後、相続する団塊ジュニアの身に重くのしかかることになるのだ。

 税理士から家の評価額が3000万円と言われれば、そんなものかと思って相続するのだが、親が持っていた家を自分が持つようになってからが、大変に厄介な存在になることに、相続が完了した時点では、多くの相続人が気付いていない。

 相続税の額ばかりに目を奪われていた相続人が親の家を相続して、最初に驚くのが、相続したあとの翌年5月に、自宅あてに届く固定資産税評価額の通知書だ。相続をすれば当然であるが、相続人が家屋敷を引き継いでいるわけだから、土地および建物について固定資産税や都市計画税を支払う義務が出てくる。

 地方であれば、税額はそれほどの負担とはならないが、首都圏などの大都市圏郊外の戸建て住宅やマンションともなれば、固定資産税に都市計画税を加えた金額は馬鹿にならない。

 たとえば首都圏近郊のニュータウンなどで、土地が5、60坪程度、建物が30数坪の住宅であれば、小規模住宅用地の特例適用後でも固定資産税・都市計画税の負担は15万円程度になる。なお、この小規模住宅用地の特例とは、敷地面積が200平方メートル以下の住宅用の宅地については固定資産税が従来の6分の1、都市計画税が3分の1に軽減されるものだ。都区内のマンションでも意外と税金は高く、やはり15万円から20万円くらいの税負担が発生する。

 しばらく使わずに放っておくための費用として毎年15万円の負担はちょっときつい。戸建てであれば芝刈りや雑草取り、庭木の剪定なども必要になってくる。空き家にすると、敷地内にハクビシンやタヌキなど、いろいろな小動物が棲みつくこともある。こうした動物の駆除や、築年数によっては外壁の塗装や屋根の補修など、相続してしまったばかりに大変な費用を、住んでもいない空き家に関して負担することになる。

 マンションもうまく借り手がつけばよいが、空き部屋のままだと管理費や修繕積立金を毎月4万円も5万円も負担することになる。

 不動産を所有している限り、この固定資産税という税金は、相続人の都合はお構いなしに毎年「確実に」請求される。したがって、相続した家を放置しておくことは、自動的に、毎年この負担を担い続けることになるのだ。相続の際には、相続税額の減額について親身にアドバイスしていた税理士も、意外と固定資産税については無関心であったり、そもそもあまりよく知らなかったりする。

 団塊ジュニアの多くは、すでに自分でマンションなどをローンで買っているケースが大半だ。親の残した家に興味がないからといって放置もできない。彼らの親が残した家が首都圏であれば、迫りくる税金対策に活用も考えなくてはならないのが現実となってくる。

相続した家が下手をするととんでもない厄介ものに

 それでは、相続した親の家をどうやって活用していけばよいのだろうか。団塊世代の多くが持っているのは郊外戸建て住宅地、いわゆるニュータウンだ。丘陵地帯を切り開き、造成して宅地に整え、分譲していった土地である。

 相続した家のある住宅地が今でも転入希望者が多く、街として新陳代謝が活発であれば、それほど悩む必要はない。駅からバス便でも、賃貸需要がなくとも売却であれば、十分可能性がでてくる。駅バスとはいっても、若い家族が入れ替わりに転入してくるようなエリアであれば、一定の需要はある。

 だが残念ながら国内のニュータウンで、こうした「新陳代謝」がきちんと作用している住宅地は少数だ。団塊世代の買った家の多くが、1970年から80年代の分譲で、すでに30年から40年以上の時が経過し、住民は高齢化、タウン内の住宅は古く、かつては栄えた商業エリアもシャッター通りになってしまうと、借り手はもちろん、買い手もつかない状況となる。

 値段を下げればという人がいるが、そう簡単ではない。地元の小学校や中学校が統合などで廃校となってしまうと、学校まで徒歩30分などの条件ではファミリー層はすでにNGだ。 以前のように国民の多くが住宅困窮者であった時代であれば、価格に反応する需要層は見込めるのだが、これだけ住宅余剰の時代になってしまうと、無理して住宅を買い求める層を見込むことも難しい。条件を下げればというのは、あくまでも潤沢な需要が存在するときだけの理屈なのである。

 更地にして駐車場にすればよいとも考えがちだが、戸建て住宅地の場合、多くは個別の敷地内に自分の車を駐めているので、あまり需要が見込めない。さて困った、だ。こうした住宅地になれば、相続した家が下手をするととんでもない厄介ものになる危険性まで出てくる。

 団塊世代の親が一生懸命住宅ローンを返済しながら残してくれた住宅。ところが、団塊ジュニアたちにはすでに別の家がある。従来であれば、両親が残してくれた戸建て住宅は、「財産」として、のちに続く子供たちの住居になる、賃貸用の運用資産として一族の生活を豊かにする、いざという時には換金してまとまったお金を手にできる、など本来不動産が持っていたはずの大きなメリットを何も感じることができない世の中になってきているのだ。

相続放棄や市町村への寄付にも壁

 どうにもならない団塊世代の親の家、このことに世の中の人たちがようやく気が付き始めている。不動産価値に対する大きな考え方の変化、「不動産価値革命」と呼んでもいいような大きな考え方の変化が生じつつあるのだ。

 相続する不動産が、自分が利用する予定がなく、賃貸などの運用の可能性が低く、そして換金もままならない、それどころか毎年の固定資産税都市計画税の負担から永遠に逃れられない、ということになれば相続人の多くは、「そんなもん、いらないよ」ということになるだろう。ここでよく聞かれる話に、「不動産は使わないなら相続放棄をすればよい」「不動産は市町村に寄付しちゃいましょう」といったセリフだ。

 ところが世の中そううまくはできていない。相続放棄は相続人に相続する意思がまったくない場合、相続発生から3カ月以内に地域の家庭裁判所に申し出れば放棄することができる。だが相続を放棄する場合には、対象となるすべての相続財産に対して相続の放棄をしなければならない。都合の悪くなった不動産のみを相続の対象から外して、現金のみをちゃっかり相続するなどということはできないのだ。

 また市町村への寄付についても、ほとんどの場合は「受け取ってもらえない」と考えていたほうがよさそうだ。歴史的、文化的な価値がある、あるいは自治体の施設として活用の可能性があるなどといった場合を除き、通常の戸建て住宅では、自治体はまず受け取ってはくれない。市町村とて、相続人が「いらない」からと言って唯々諾々と寄付を受けていては、管理不動産ばかりが増えて税収が減るだけになってしまう。相続税もなるべく現金などの換金性の高いものから徴収しようとするのが常だ。

 ここで考えなくてはならないのが、相続予定の親の家が、今後どの程度の価値を持つものなのかについて十分な見通しを持つことだが、相続人のほとんどは、不動産について特に知見があるわけではない。相続を受けてから「こんなはずではなかった」と嘆いても始まらない。それが特に首都圏にある家の場合、相続人には大変な「負動産」が舞い込んでくるのだ。その可能性がもっとも大きいのが今、団塊世代を中心に所有している郊外戸建て住宅、築年数の経過した古びたマンションなのだ。親はいつか亡くなる。その後にふりかかる事象について今から考えておく必要がありそうだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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