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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

大阪・道頓堀の公示地価28%下落、博多は9%上昇…「都市力」の差が浮き彫りに

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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「Getty images」より

 2021年の公示地価が発表された。発表によると全国平均の地価は6年ぶりに下落に転じた。全国の住宅地は対前年比で▲0.4%、商業地では▲0.8%といずれも前年の住宅地で0.8%、商業地で3.1%のプラスであった状況が下落に転じた。

 特にコロナ禍の影響が出たとされるのは、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の商業地だ。東京圏は▲1.0%(前年+5.2%)、大阪圏▲1.8%(前年+6.9%)、名古屋圏▲1.7%(前年+4.1%)と昨年までの急速な伸びが一転下落に転じている。コロナ禍による緊急事態宣言の発令で、飲食店舗が並ぶエリアや国内外の観光客を取り込んできたエリアでの下落が目立ったほか、オフィスへの通勤が基本で成り立ってきたオフィスビル需要が、テレワークの進展によってオフィス賃借面積の縮小、解約が相次いでいることが影響しているといえよう。

 三大都市圏が下落に転じた一方で、地方圏、とりわけ地方四市と呼ばれる札幌、仙台、広島、福岡は、踏みとどまっている。上昇率こそ縮まったものの、地方四市の平均で、住宅地は+2.7%(前年+5.9%)、商業地は+3.1%(前年+11.3%)と依然として地価が上昇していることが示された。

 今回の地価下落については、コロナ禍の影響が大きいということであるならば、大都市ほど影響があるはずだ。東京や大阪のようなオフィスや商業施設が多数集積しているエリアは、人々がStay Homeすることで経済活動が縮小、その結果が地価下落につながったと考えるのが自然だ。

大阪と福岡の比較

 ただ、今回のデータをつぶさに検討すると、やや違った実像が見えてくる。たとえば大阪と福岡を比較すると都市としての実力差がみえてくる。

 大阪市の公示地価では、住宅地では▲0.1%(前年+1.2%)、商業地では▲4.4%(前年+13.3%)と、特に商業地で大幅な下落となっている。内容をフォーカスして大阪市の商業の中心地である中央区がどうなっているかみてみると、商業地で▲8.1%(前年+18.2%)と下落幅は拡大している。

 データをさらにフォーカスする。先日、1920年創業の老舗ふぐ料理店「づぼらや」が閉店となって話題となった大阪市中央区道頓堀一丁目の公示地価は▲28.0%、なんと全国一の下落率を記録している。

 下落が激しいのは道頓堀だけではない。道頓堀の隣町で、インバウンド目当てにここ数年でホテルが林立している宗右衛門町で▲26.5%、難波で▲25.7%と続く。公表されている全国の商業地下落率ワースト10の実に8カ所を大阪市内の地点が占めていることがわかる。

 インバウンド需要で地価上昇が続いてきた大阪市は、需要の消滅は地価下落に直結しているのだ。大阪や京都などでインバウンド需要を期待して積極的に展開してきたホテル関連業者は倒産ラッシュ、ホテル物件の売却案件も日に日に増えているのが現状だ。

 昨年6月にWBF(ホワイトベアーファミリー)社が351億円の負債を抱えて倒産したことを皮切りに、「グラッドワン」のブランドで大阪や京都にホテル展開をしていたグラッドシステムズの倒産、近鉄グループホールディングスによる大阪、京都などの所有8ホテルの米国ファンド、ブラックストーンへの売却など枚挙にいとまがない。阪神阪急ホテルズは関西圏のホテルを中心に7軒のホテルの休業を発表した。

 大阪市内の状況は、コロナ禍がある程度収束し、2025年の万国博覧会を待たなければなかなか地価も回復しないのではないだろうか。東京のような大きなオフィス需要も見込めず、どちらかといえばインバウンド一本槍で伸びてきた大阪の地価の回復への足取りは重いと言わざるを得ない。

 一方で、コロナ禍においても踏みとどまった地方四市のなかで、福岡市についてもう少しつぶさにデータを読み込んでみよう。

 まず、福岡市でコロナ禍がなかったわけではない。東京や大阪と同様に、一時は全国的にコロナ禍が蔓延するニュースが流れ、博多中洲や祇園の飲食店が営業自粛、閑古鳥が啼いていたことは記憶に新しい。インバウンドなどの観光客も激減。実はこの状況は基本的には大阪市と変わってはいない。

 ところが福岡市の公示地価をみると、住宅地で+3.3%(前年+6.8%)、商業地で+6.6%(前年+16.5%)と堅調である。さらに市の中心部、博多区にフォーカスすると、住宅地で+7.8%(前年+11.1%)、商業地で+8.8%(前年+21.5%)。上昇率こそ縮まったものの十分な値上がり率を示している。

 さらに商業地を地点別にフォーカスすると、中央区清川の+15.0%を筆頭に博多区の祇園や博多駅前でも+12%以上と、全国商業地上昇率ベスト10のうち、なんと8カ所(博多区5カ所、中央区3カ所)がランクインしているのである。大阪と福岡でまったく逆の結果となったのである。

福岡は地政学的に大阪よりも優位

 さて、今回の地価公示における二つの都市で、なぜこのように明暗が分かれてしまったのだろうか。それは福岡と大阪のそれぞれの今後の発展可能性にある。

 大阪市は1965年に人口が316万人あったのをピークに人口が減少を続け、一時は260万人に落ち込んでいたが2005年頃から徐々に回復に向かい、現在は275万人にまで回復している。だが、大阪市人口ビジョン(2020年3月更新案)によれば、今後人口は再び減少に向かい、30年には269万人、40年には257万人にまで落ち込むことが予想されている。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2018年3月推計)では予測はさらに厳しく、30年262万人、40年には248万人と250万人を割り込むとされている。

 一方、福岡市については、人口は20年で160万人、20年前の2000年134万人に比べて2割近くも上昇。さらに将来推計人口でも40年でも167万人と人口は増加し続けることが予想されている。また福岡市は大阪市と比べても全体の人口に占める生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)の割合や年少者人口(14歳以下の人口)の割合が高い、つまり市民が若々しい街なのである。

 現役世代が多く、今後も人口が増加し続ける街だということは、住宅に対する需要もあるということだ。実は、このコロナ禍で博多区や中央区ではインバウンド需要の消滅でホテル用地を買い漁る動きは減少したのだが、実需や投資用のマンション用地を物色する動きは活発で、こうした実需が地価を下支えしている要因なのである。

 また、福岡は地政学的にも今や大阪よりも優位なポジションにある。アジア経済が急速に成長していくなかで、福岡はアジアからのゲートウェーとして交通の要衝にあるからだ。それはアジア各都市への飛行時間という時間距離で考えてみるとわかりやすい。

 福岡からソウルへは1時間30分。これは福岡から東京へ飛ぶのと同じ時間距離だ。ちなみに大阪からソウルへは2時間5分かかる。同じく福岡から上海へは1時間45分。大阪からは2時間45分だ。アジアを見据えたビジネスにおける時間距離は、圧倒的に福岡が大阪に対して優位な立地にある。

 福岡は歴史的にも、朝鮮半島や中国などのアジア地域を中心に、海外に対して門戸が開かれた街であり続けてきた。それだけ外からの人や文化の受け入れにも抵抗が少ない。ポスト・コロナ時代においても福岡は、大阪よりもはるかにポテンシャルがある街なのだ。

 地価はその地域や街に対する期待値の現れでもある。今後も不動産に対する実需、投資あわせてこの街は活況であり続けることだろう。図らずも大阪と福岡の都市力に対する期待値の違いがコロナ禍で露呈したのが、今年の地価公示であったのだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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