「え? 河野太郎じゃなくて武田良太ってどういうこと?」――。総務相人事をめぐって15日夕に武田衆議の就任が報道されると、総務省全体に動揺が走った。武田氏は前国家公安委員長兼防災担当相であり、それ以前は防衛副大臣を歴任した二階派のホープだが、総務省が所管する自治体行政や通信行政に関しては素人。当初は菅義偉首相が最優先課題として掲げる携帯電話料金引き下げのために、コストカッターとして有名な河野衆議を登用するとの見方が大勢だっただけに、今回の組閣人事のなかでも最も意外性の高いものとなった。
もともと今回の総務相人事は、菅首相が総務相経験者であり実務に通暁しているため、事実上フリーハンドで好きな人材を就けられる。そのため、筆者も橋下徹元大阪府知事が就任する可能性があると報じたが、それくらい大胆な人事が断行される可能性があった。
橋下氏に次いで有力候補だったのが河野氏だった。河野氏は最終的に行革担当相に就任したが、官房長官説、総務相説が根強かった。この背景について全国紙政治部記者はこう解説する。
「早期の解散総選挙が予想されるなかで、毎日テレビに映る官房長官に人気の高い河野氏を据えるというのは十分可能性があった。しかし、防衛相時代に非常に微妙なテーマである女系天皇について発言したり、自民党総裁選直前の9日夜に米国のシンクタンクが主催するイベントで『10月中に総選挙が行われる』とフライングで発言したりするなど軽はずみな言動が目立ってきた。これで、失言が許されない官房長官には不適格だという印象を菅氏らに与えてしまった。官房長官がダメということになったあとは、外務と防衛とこれまでは得意の英語を使う外交畑の閣僚ポストばかりだったため、『総理候補なんだから国内行政もしっかり経験させておけ』という話になり総務相就任ということで話は進んでいた」
では、なぜ直前になり総務相から行革担当相に変更になったのか。実際、一部では河野氏が総務相に就任するとした報道も出ていた。これについてある自民党関係者はこう声を潜める。
「河野総務相就任の話がつぶれたのは、15日夕に菅首相と加藤勝信官房長官が会談し、正式に官房長官への就任を打診した後です。そこから急に人事について慌ただしくなった。一説には、当初決めていた閣僚人事のなかでスキャンダルが身内の検査で発覚し、急遽ポストを一つずつずらしたことが原因とされています」。
なぜ武田氏が就任したのか?
予想を覆して総務相に就任した武田氏は、衆議院福岡11区選出の当選6回で52歳と二階派の幹部候補といわれている。今回の人事では菅首相誕生の流れをいち早くつくった二階派が「元警察官僚でパチンコ業者などとのスキャンダルの噂が絶えず、衆院当選8回でまだ入閣していなかった平沢勝栄衆議の閣僚ポストを最優先に求めた」(全国紙記者)など、論功行賞で影響力を発揮しており、武田氏の総務相就任もその一つとみられる。
武田氏自身も今回の人事は意外だったようで、「人事内定の電話を受けた時、思わず『は?』と返事してしまった」(全国紙政治部デスク)という。菅氏が総務相に求めるメインテーマは携帯電話料金引き下げだが、総務省関係者は「通信行政を所管する旧郵政省系の部署の職員で武田氏に大臣就任前にレクをした人間は一人もいないと断言していい」とこれまでの縁のなさを強調した。
熱意はあるものの……
武田氏は17日の就任記者会見で、「郵政民営化法案に反対した時は、ものすごく深く入り込みましたし、消防関係ともいろいろなやり取りをやってまいりました」とアピールしたものの、門外漢であることは否めない。「この内閣は、例えば総理から支配されるということではなくて、全員が政府を挙げて協力し合って国難に立ち向かおうとする内閣」だと強調したが、裏を返せば自分にやりたいテーマがないということだ。
一方、菅首相肝いりの携帯電話料金引き下げについては、総務省側から最低限のレクが入ったのか、「携帯電話は贅沢品ではなくて、国民の命に関わる大変重要な通信手段」とし、「国際的に見て、日本の料金体系を見直す必要がある」と漠然とした方向性は示したものの、具体性に乏しい。
総務省には「携帯料金値下げの鬼」と恐れられる谷脇康彦総務審議官が通信行政を所管しており、菅首相のグリップが利いている限り、武田氏が自分で考える必要性は乏しい。谷脇氏については「現代ビジネス」ですでに記事を書いたのでご参照いただきたいが、菅政権誕生で谷脇氏の次期総務次官就任は決定的となった以上、菅・谷脇ラインで携帯料金値下げの流れは強まるのは間違いない。武田氏について先の政治部デスクはこう話す。
「就任からの記者会見や、20日の新閣僚を集めたNHKの『日曜討論』を見ていると、せっかく就任したのだから存在意義を示したいという気持ちが前面に出ているのがうかがえます。ただ、こういう閣僚が失敗しがちなのは、なじみのない分野について役人のペーパーを棒読みしていればいいところを、自分の言葉で無理に語ってしまうところ。記者の質問にいら立って余計な発言をすれば、それが致命傷になる可能性もあります」
武田氏の今後のメディア対応に注目が集まりそうだ。