「どういう趣旨なのか。勝手なことをしやがって」
二階俊博自民党幹事長がそう言ったのか、二階氏の取り巻きがそう放ったのかは定かではないが、複数のメディアが同派議員の怒りの声を報じた。菅義偉首相は14日、新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、観光支援事業「Go Toトラベル」の全国一斉停止を表明した。年末年始の一時停止ではあるが、政界はもちろん観光業界に動揺は広がっている。
菅首相は11日、ニコニコ動画の番組に出演し、「経済を壊してしまったら大変なことになる」「いつの間にかGo Toが悪いことになった」と発言したばかりだった。舌の根も乾かないところでの“変節表明”に自民党二階派幹部は怒り心頭だ。
「二階さんがお怒りなのは、マスコミが騒いでいる旅行業界の利権がどうこうという話ではない。自民党の党としてあり方の問題です。自民党では、各派閥、無派閥を含め多種多様な意見がある。どのような意見だって言って構わない。ただ、一度決まったことは党として、筋を通すべきだという組織です。後出しじゃんけんでごちゃごちゃ言ったり、いきなり後ろから刺したりするような行為はもってのほかということです。にもかかわらず、今回の首相の表明は、通すべき筋を通さず、党幹部への根回しをおろそかにし、無用な混乱を呼んでいる」
同派の別の中堅議員は次のようにつけ加える。
「菅首相は基本線として(Go To)推進の方針を貫くことを二階さんと合意していた。二階さんはそうした合意があったからこそ、混乱する党内をまとめ、安倍晋三前首相や麻生太郎財務相をはじめ、各派閥の幹部に根回しをしていた。それもこれも、この情勢下で政治に余計な混乱を招かないためでしょう。ところが、今回の一件は二階さんにも筋を通していないし、党内各派への満足な根回しもせず、突然表明した。
その結果、目立ちたがり屋の若手や、満足に地元で票を取れない議員がブーブー言い始めた。菅首相はこのコロナ禍に制御できない政局を生み出したいのか」
「みんな自分の議席は失いたくない」
とはいえ、12日に毎日新聞が公表した世論調査の内閣支持率は前回(11月7日)の57%から40%へと17ポイント急落している。自民党内で二階派や首相官邸に対し、「もっと世論を気にしろ」との批判が高まっているのも確かだ。自民党細田派の中堅議員は次のように語る。
「みんな衆院解散・総選挙モードに入ったということなのでしょう。現在の世論を踏まえれば、受かる選挙も受からないですから。みんな自分の議席を失いたくないですしね。最近は安倍さんが再登板をほのめかしたり、麻生さんが菅首相と不仲だったり、かつて盤石だった二階派、麻生派、細田派が形作っていた自民党の屋台骨が揺らいでいる。仮に総選挙になっても、今の野党が政権をとることは100%ないにしても、現在の自民党内の奇妙なパワーバランスは選挙で一変すると思います。
二階さんがどんなに政権の延命を図ろうとしても、次の選挙で党内の勢力図は変わると思いますよ」