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菅首相、長男の「東北新社」中途入社で便宜図る…創業者に口利き、元総務相の立場を利用か

文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士
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首相官邸のHPより

 菅義偉首相の長男で東北新社社員の菅正剛氏から総務省幹部が接待を受けていた問題で、同省は24日、谷脇康彦総務審議官ら9人を懲戒、2人を戒告とする処分を発表した。

 総務審議官時代の2019年に接待を受けていた山田真貴子内閣広報官は25日、衆院予算委員会に参考人として出席。山田氏は「(首相の長男との会食は)私にとって大きな事実ではない」「放送業界全体の実情に関する話はあったかもしれないが、全体としては一般的な懇談だった」などと語り、内閣広報官を続投する意向を示している。

 総務省はBS・CSなどの衛星放送事業の許認可権を有しているが、東北新社は子会社を通じて現在、計8つの衛星チャンネルを運営。総務省幹部が同社から接待を受けていた時期にあたる18年には総務省は同社子会社の「囲碁将棋チャンネル」(CS放送)、20年には「スター・チャンネル」(BS放送)の継続・更新を認可している。

 そして菅正剛氏は東北新社のメディア事業部趣味・エンタメコミュニティ統括部長というポストに就くほか、同社子会社で総務省認定の衛星基幹放送事業者である囲碁将棋チャンネルの取締役も務めている。

「正剛氏は現在40歳ということですが、その年で東北新社クラスの老舗大手メディア企業の部長職、さらには子会社取締役というのは、異例中の異例というか、ちょっとあり得ない人事です。さらに、40歳そこそこの部長クラスが、総務省幹部と会食をするというのも、通常では、あり得ません。本来なら東北新社本体の役員クラスが相手をする話ですから。まさに“菅さんの息子”ゆえの特別待遇ですよ」(大手広告代理店社員)

菅首相と東北新社の関係

 東北新社といえば、前述の衛星放送関連事業のほか、テレビ番組・映画・CM制作、映画配給、各種映像コンテンツの輸入・仕入・販売・編集・版権ビジネスなど、映像関連ビジネス全般を幅広く手掛ける名門企業として知られている。

 その同社に正剛氏は2008年に中途入社しているが、06年に当時総務相だった父・菅氏の秘書官に就くまではバンド活動をしていたと報じられており、東北新社が手掛けるビジネスでの経験は特に見当たらない。

 一方、菅首相と東北新社の関係は深い。菅首相と同社創業者(故人)はともに秋田県出身で、創業者とその息子の元社長から12~18年に計500万円の個人献金を受けている。さらに22日の衆院予算委員会で菅首相は、創業者と自身の長男を引き合わせたことを認める一方、「(長男の正剛氏と創業者の)2人で(就職の)話を決めた」と答弁した。

「なんの実績もない20代の若者が、大手メディアの創業者と“2人で話して就職が決まる”なんて、これを聞いて“コネ入社”だと思わない人はいないですよね。総務相を経験した大物政治家が息子と創業者を“引き合わせた”となれば、結果として世間的には“口利き”と見なされても仕方ないでしょう。

 大手広告代理店はコネ入社が多いと誤解されがちですが、たとえば電通の場合、毎年百数十人の新卒社員のうち、純粋なコネ入社というのは、そのうちの数人、一桁台くらいじゃないでしょうか。もちろん業種にもよりますが、今は一部上場企業だと、大口取引先企業の部長クラスの子息くらいでは難しく、役員クラスにならないとコネ入社の対象に入ってこないのではないでしょうか。

 もっとも、大手メディアには“政治家枠”があるので、有力議員の子息などは結構多いですが、今回の東北新社のケースのように、自社の事業にダイレクトに権限を持つ省庁の大臣経験者の子息となれば、採用しないわけにはいかないでしょうし、むしろ“入社させて利用しよう”と考えるのは企業としては当然でしょう」(大手広告代理店社員)

 そして、過去に総務相・官房長官を歴任した菅首相といえば、総務省のみならず省庁全体に絶大な力を持つ政治家として知られている。

「強引に総務省でふるさと納税を推し進めた菅氏は首相就任後、政権の浮揚策の目玉として、総務省が管轄する通信業界に携帯電話料金の値下げを飲ませた。その菅首相の側近だった谷脇総務審議官、吉田真人総務審議官、秋本芳徳前情報流通行政局長の3人組が、あろうことか総務省のダイレクトな利害関係者である東北新社社員で、菅首相の息子である正剛氏から接待を受けていた。さらに同省出身で菅首相が内閣報道官に抜擢した山田氏まで同罪だったわけで、まさに“菅首相の身内が全員ズブズブ”な実態が露呈した格好となりました」(全国紙記者)

「わいろ」に当たる?

 自身の政治的立場を利用して、息子の就職に便宜を図っていたのだとすれば、倫理的に許されることではないが、法的に問題はないのだろうか。山岸純法律事務所の山岸純弁護士は、次のように解説する。

「実は、収賄罪や贈賄罪で問題となる『わいろ』は、金銭に限られず、『人の需要もしくは欲望を充たすべき一切の利益』とされているので、代わりに借金を返済してくれた、豪華な食事をおごった、というのも『わいろ』になる場合があります。

『親族を入社させる』というのも、入社倍率が高く給与も良い会社への紹介などであれば、人が羨む職に就かせたという点で『わいろ』にあたるかもしれませんね。

 もっとも、収賄罪などは、単に『わいろ』をもらっただけでは成立せず、『職務に関して』という要件が必要となります。菅首相の息子が就職したのが2008年、菅首相が総務相を退任したのは07年なので、いくら就職先が総務省が管轄する放送事業を行っていたとしても、『職務に関して』とするのはムリでしょう。

 また、『コネ入社』自体も、いわゆる政治家の“口利き”のレベルでしょうから、法律問題とすることは難しいでしょう。

 ただ、一時期のスポーツ推薦で偏差値の高い大学に入ったスポーツが得意な高校生のほとんどがスポーツ以外の大学の授業についていけなくなった例と同様に、実力で入社してないなら、たいしたことはないんでしょうね(スポーツ推薦を否定する考えではありません)」

 盤石とみられた菅政権だが、早くも綻びが見え始めている。

(文=編集部、協力=山岸純/山岸純法律事務所・弁護士)

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時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。

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