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菅首相が機能不全、情報入らず孤立…山田広報官を更迭できない事情 五輪強行で政権延命

文=編集部、協力=朝霞唯夫/政治ジャーナリスト
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首相官邸のHPより

 菅首相がついに“ブチ切れ”した――。

 菅義偉首相の長男で東北新社社員の菅正剛氏から総務省幹部が接待を受けていた問題で、同省は24日、谷脇康彦総務審議官ら9人を懲戒、2人を戒告とする処分を発表した。

 この問題で注目を集めているのが、山田真貴子内閣広報官が総務審議官時代の2019年に正剛氏から接待を受けていた点だ。山田氏は25日、衆院予算委員会に参考人として出席し、「(首相の長男との会食は)私にとって大きな事実ではない」「放送業界全体の実情に関する話はあったかもしれないが、全体としては一般的な懇談だった」などと語り、内閣広報官を続投する意向を示している。

 山田広報官は通常、首相官邸で行われる菅首相の記者会見で進行役を務めているが、26日夜に予定されていた、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の一部解除決定に関する菅首相の記者会見が中止に。同日夜に記者団のぶら下がり取材に応じた菅首相は、会見中止と山田氏の接待問題の関係について聞かれ、「まったく関係ない」と語った。

 記者団から山田氏に関する質問が相次ぐと、菅首相は苛立った表情を浮かべて「あのー、今日、こうして、ぶら下がり会見を行っているじゃないでしょうか」「必要なことには答えているんじゃないでしょうか」と発言。テーマが変わり経済対策関連の質問が出ても、「ほかの方、よろしいですか」と回答を拒否。さらにコロナ感染の再拡大について聞かれると、両手をあげて怒りをあらわに「いや、ですから。基準を決めてるわけですから」と声を荒げる場面もみられた。

 最後は「いや、私も時間がありますから。でも、だいたい、みなさん、出尽くしてるんじゃないですか。先ほどから、同じような質問ばっかりじゃないでしょう」と記者団への批判を展開した。

官房長官時代との違い

 菅氏といえば安倍政権の官房長官時代、毎日の定例会見でも安定した受け答えに定評があったが、首相就任後は国会答弁でも「切れがなくなった」という声も目立つ。全国紙記者はいう。

「官房長官はあくまで“首相のサポート役”“黒子”という位置づけで、世間からもマスコミからもそういう扱い。最終責任者は首相なので、厳しい批判や追及も最後には首相に向くことになりますが、今度は菅さん自身がその立場になった。菅さんは官房長官時代に会見で『承知していない』『問題はない』というフレーズを多用していましたが、首相になった今、その手が許されなくなったということでしょう。

 また、官房長官は“裏の仕事”なので、外からは見えないかたちで、その威光を使って官僚に直接指示して物事を動かすことができるし、人事にも介入できますが、首相になれば、そうはいかない。官僚を動かすにも各大臣を通じて行わなければならず、しっかりとした手続きを踏むことも求められる。そういった点も菅首相を苛立たせているのでしょう」

 山田報道官の続投に批判も強まっているが、政治ジャーナリストの朝霞唯夫氏はいう。

「山田氏は総務省内で“優秀なだけでなく対人コミュニケーション能力も高い”と評価が高く、人望もあつい。その同氏の能力を買って、菅首相は初の女性内閣報道官として抜擢したわけで、今さら簡単に切れないという事情もある。また、今の菅首相には信頼を置ける側近がおらず、菅首相の頭の中では“山田氏の替わりが務まる人物がいない”という考えが固まっていて、更迭や辞任はないとみられています」

ワクチンと東京五輪

 接待問題をめぐっては、政権の目玉である携帯電話料金値下げの推進役で、菅首相とも距離が近かった、総務省の谷脇総務審議官、吉田真人総務審議官、秋本芳徳前情報流通行政局長が懲戒処分に。さらに、彼らをはじめとする同省幹部に接待を行っていたのが菅首相の長男だということもあり、菅首相の進退を問う声も強まっている。

「菅首相は22日の衆院予算委員会でも、『大変申し訳なく、お詫びを申し上げたい』などと終始、謝罪と低姿勢に徹していました。自民党としても、とにかく謝罪を繰り返しているうちに“ほとぼりが冷める”のを待つという戦略です。実際に安倍政権時代、森友問題や桜問題で政府・与党がさんざん叩かれた際にも、内閣の支持率は下がったものの、野党の支持率は上がらず、いつしか“いつまで同じ問題を追及しているのか”と世論の批判が野党に向かう流れにもなった。その前例があるため、自民党としては“とにかく低姿勢を通して様子を見る”という構えで、現時点では“菅降ろし”“山田降ろし”の動きはありません。

 菅首相と自民党は、コロナワクチン接種が広がり徐々に景気が回復兆しがみえて、さらに無観客でもなんでも東京五輪が無事行われて国民が高揚すれば、支持率も回復してくると読んでおり、とにかく今は、この2つに注力する意向です。ただ、すべては今年10月の衆議院任期切れに伴う衆院総選挙。自民党は菅首相と心中するつもりはなく、もし事前の調査で“菅総裁では勝てない”という結果が出れば、9月の総裁選で選挙向けの新しい党の顔を選ぶことになる。とりあえずは“そこまでは菅さんに耐え忍んでもらう”という考えでしょう」

 もっとも、自民党の考えとは裏腹に、菅首相の親族や側近など“身内”にからむ不祥事ゆえ、菅内閣への批判は弱まる気配はないが――。

「菅さんの官房長官時代から如実でしたが、安倍内閣の2014年に内閣人事局がつくられ、官僚は人事を官邸に握られたこともあり、菅さんをはじめ強くなりすぎた官邸の力を恐れて、官僚から異論や悪い情報が上がらなくなっている。正しい情報が入らず孤立化して、さらに信頼できる側近的な人物もおらず、菅首相のイライラがますます募っているようにみえます」(全国紙記者)

 盤石とみられた菅政権だが、早くも綻びが見え始めている。

(文=編集部、協力=朝霞唯夫/政治ジャーナリスト)

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