東京オリンピックのマラソンコースのテスト大会「札幌チャレンジハーフマラソン」(イベント名:北海道・札幌マラソンフェスティバル 2021)がゴールデンウィーク(GW)中の5日午前、札幌市の大通公園などで開かれた。一方、北海道はテスト終了直後の同日午後、新型コロナウイルス感染拡大中の札幌市を対象に「まん延防止等重点措置」の適用を国に要請することを決定した。テスト大会と国への要請の“微妙なタイミング”に関し、ネット上では「五輪ありき」「まん防要請するほど危険な中でマラソンしたってこと?」などと疑問の声が上がっている。
この状況下で、どうやって大量の運営人員を確保したのか。またテスト大会の開催と道庁の”まん防”要請のタイミングのズレにはどんな意味があるのか。取材を進めていくと、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の強固な規定方針と、それに振り回され続ける現地の状況があらためて浮き彫りになってきた。
観戦自粛呼びかけスタッフの増員で運営人員は約2倍に
今回のテスト大会では、沿道の観客の“密”回避のため完全自粛を呼びかけるスタッフを大幅に増員したのだという。ところが報道によってその人員数はまちまちで、実態は不明な部分が多い。札幌市スポーツ局国際大会担当部東京オリンピック・パラリンピック担当課は次のように話す。
「感染自粛を呼びかけるスタッフを約300人増員し、(テスト大会全体で)約770人体制で運営しました。この数字の中には警備員や組織委も含まれています。そのうち、都市ボランティアは400人強です。
都市ボランティアはそもそも本大会の運営にご協力いただく皆さんです。本来ではあればテストレースの運営は業務に含まれていません。もともとお願いしている業務は、海外や道外のお客様を案内する仕事なので、別に募る必要がありました。そのため、ボランティア登録されている方々に呼び掛け、任意でテスト大会にご協力いただくことになりました」
都市ボランティアの大量動員はどのように行われたのか
各自治体の都市ボランティアは、夏の五輪本大会の業務のために募られている。組織委の必要に応じて、各イベントに自由に動員できるわけではない。また、各地の感染者数が激しく増減する状況下で、あらかじめ「観戦の完全自粛を求めるスタッフ」を想定し確保するのは、なおさら難しいのではないだろうか。札幌市がボランティアに呼び掛けても必要な人員が集まらなければ、どうなっていたのだろう。
組織委の人員手配の裏側について、北海道の陸上スポーツ団体関係者は嘆く。
「まさかこういう業務が降ってくることになるとは思いませんでした。テスト大会は昨年12月15日に日程が決まりました。ちょうど旭川や東京などで感染者が増え、コロナ第三波の襲来がささやかれていた時期です。私のような末端会員には真偽ははかりかねますが、テスト大会の開催日決定からしばらく後に、組織委と日本陸上競技連盟の上層部から複数のルートでうちの団体の札幌支部に『札幌のテスト大会、人手が足りないので手伝ってくれ』との指示が来ていたという話です。
その後、札幌市さんが都市ボランティア登録者に今回のテスト大会への参加を呼びかけ始めたので、それに応じました。この状況下ですから、GW中の家庭の予定は特にないので参加しました。まさか自粛プラカードを持たされて沿道に立たせられるとは思ってもいませんでしたが(苦笑)。
マスコミ関係者はたくさんいましたが、現場は報道で言われているほど密な感じにはなっていませんでしたよ。『東京五輪反対』を呼び掛けている市民の方がちらほら見かけられたようで、一部スタッフが怖がっていました。
いずれにせよ都市ボランティアは便利屋ではありません。ボランティアに突然予定外の業務を課したり、当初予定にない日程を突っ込んだりするのは大丈夫なのでしょうか。各地でボランティアの辞退が顕在化している中、こうしたやり方がマイナスにならなければよいのですが」
それでも五輪は開かれる
北海道議会関係者は次のように語る。
「運営全体の統括は組織委の担当です。北海道庁や札幌市はその方針に沿って、現場レベルの課題をクリアしつつ、粛々と運営するしかありません。感染自粛措置やそれに伴う人員の確保は現場に丸投げという構図です。『できない理由を述べる暇があったら、できる方法を考えろ』というのが、最近の組織委の開催自治体への方針のようですしね。
タイミングが物議を醸している『まん延防止等重点措置』の国への要請に関して、道庁内で綱引きがあったのは間違いないようです。本大会までの残り日数を考慮すれば、是が非でもこのタイミングでマラソンテストを実施しなければなりません。しかし、一方でテスト大会前後の数時間で北海道や札幌市の感染状況が変化するわけではありませんから、テスト実施前に(まん防の国への要請決定を)発表することもできたはずです。なぜこのタイミングになったのかについては今後、道議会でも問われるでしょうね。
逆を言えば、今回のテスト大会が仮に『まん防』下で実施されていたら、それを前例として、なし崩しに他の自治体でも次々に『まん防』下で五輪のプレイベントが開催されることになったのではないでしょうか。つまり組織委は『まん防や緊急事態宣言下で開催しても、クラスターは発生しない』という大義名分を得ることになるのです。そうなれば、もう五輪開催を遮るものなどなくなりますよね。
今回の一件でよくわかったのは、組織委が『開催地がどんな状況でも大会は開かれなければならない』という考えを強く持っているということでしょう。最大の謎は、そうまでして開催しなければならない理由です。この状況下で開催するのであれば、各自治体や国民に対し、納得のいく説明をしていただきたいと思います」
(文=編集部)