「開会式の演出をめぐるゴタゴタに加え、コロナで直前まで会場に観客を入れるのか無観客でやるのかも決まらず、リモートワークも許されずに連日深夜まで残業する職員も多かった。メンタル疾患で離職する人も出て、さらにコロナの影響で世論は完全に五輪反対ムード一色となり、世間から組織委を見る目も冷たくなる一方。職員の間からは『いったい、何のためにやっているのか』という声も聞かれ、お祭りムードなど皆無ですよ。二度とこんな仕事はしたくないです」(東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会職員)
直前まで混乱を極めていた東京オリンピック(五輪)の開会式を、世界はどう見ているのだろうか――。
開会式をめぐっては、準備着手当初から波乱含みだった。
2018年に狂言師の野村萬斎氏が演出総合統括に就任したが、20年12月に野村氏を含む演出企画チームは解散となり、野村氏は辞任。代わりに元電通のクリエイティブ・ディレクター、佐々木宏氏が総合統括に就任したが、タレントの渡辺直美を起用した“空から降り立つオリンピッグ”という侮蔑的な企画を提案していたことが発覚し、佐々木氏も辞任。さらに、制作チームのリーダーだった演出家のMIKIKO氏が、組織委の上層部によって辞任に追い込まれていたことも発覚。MIKIKO氏はTwitterで、本人に連絡がないままに別の演出家に交代させられていたことなどを明かした。
開幕が目前に差し迫った今月に入っても、問題が続出。開会式の楽曲担当、小山田圭吾氏(コーネリアス)が過去に雑誌のインタビュー記事で、同級生の障害者に“いじめ”を行っていたことを自慢するかのように告白していたことが発覚し、小山田氏は辞任。
開会式を明日に控えた22日には、ショーディレクターを務める小林賢太郎氏がお笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントでナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺(ホロコースト)をネタにしていたことに批判が広まり、組織委は小林氏を解任処分とした。
これについて同日、組織委の橋本聖子会長は記者会見で、「全体を早急に見直しながら、どのようにしていくかということを早急に協議している。早急に結論を出したい」と演出内容変更の可能性も示唆。だが、同日夜には「全体の調整が小林さんの役割。小林さんが単独に企画したパートはありません」(武藤敏郎事務総長)との理由で、組織委は次のように発表した。
「演出内容はさまざまな分野のクリエーターが検討を重ねて制作したものであり、小林氏が具体的に一人で演出を手掛けている個別の部分はなかったことを確認しました。開会式については、予定通り実施する方向で現在準備を進めています」
五輪関係の取材を行う全国紙記者はいう。
「小林氏は演出全体のディレクターであり、予定通りの内容で行う理由として“彼が単独に企画したパートはないから”というロジックを持ち出すのは、明らかに無理筋。ホロコーストという歴史的な事件を揶揄する人物が全体を統括した開会式を、日本が世界中に発信するということが何を意味するのか。
組織委上層部のなかでも、そうした懸念を問題視する声が強まり、一部で報じられているように、開会式のプログラムを入場行進や聖火点火などに絞ったかたちにするよう理事たちから武藤事務総長に提案があった。しかし、橋本会長と武藤事務総長はこれを無視し、予定通り行うことを発表した。組織委内では『歴史問題にかかわるだけに、もし国際問題に発展したら責任を取れない』という声も出ている」
SNS上の反応
波乱と懸念まみれのなか、23日20時に開会式がスタートしたが、冒頭のプロジェクションマッピングとコロナで葛藤する選手たちをテーマにしたパフォーマンスのコラボレーションや、木材加工の職人たちの働きをダンスやタップを交えて描くステージ、そして『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』など日本のゲームのテーマ曲が流れるなか各国の選手が入場する場面について、SNS上では以下のように賛否両論の感想があがっている。
<私だけかな? 申し訳ないけどつまらない めちゃクチャつまらない 何処の国でも出来る開会式>(原文ママ、以下同)
<ショボくなかった?>
<これ却下された方の案のが絶対よかった>
<正直開会式のパフォーマンスよく分からんかった>
<サブカルクリエイターが演出担当しても、今流行りのダンスを取り入れちゃうんだ…
死ぬほどダサい>
<なにこれ、なにを見せられてるの?>
<ぐちゃぐちゃ過ぎて流石に日本人でも意図が掴めない>
<ドラクエ人気にあやかる感じがダサいって!! 平均点取りに行ってる感じ ほんと…かっこ悪いよ…>
<開会式の演出、コロナで人数縮小のアオリで地味だけど、逆に日本の幽玄の美が際立ってて良かった そして祭りは古来より鎮魂の儀式でもあり 日本の様式美をベースにしつつ、21世紀の多様性を表現しようとする演出>
<どちらかというとオリンピック反対派だったけど…これは凄いわ……>
<オリンピックの選手入場、粋すぎてテレビの前で大声で叫んじゃった ゲーム音楽、素敵すぎる もう泣いてるw>
<日本国民皆泣いてるでしょ ドラクエの序曲からずっと泣いてる>
人々の記憶に残る開会式になったのか?
企業のブランディング・PR戦略などを手掛けるクリエイティブ・ディレクターはいう。
「全体的に一つひとつの要素がバラけ過ぎている印象。『コロナ』『日本の職人・木材・祭』『世界的なダンサー』など、“とりあえず、これだけ触れておけば文句は言われないだろう”という減点主義感をすごく感じて、何にフォーカスしているか、わからない。演出の責任者がコロコロ変わったこともあり、誰が演出を統括しているのかが見えず、クリエイターファーストでもない。個人的には“電通仕事感”を感じた。全体の流れ的にも、途中で突然グラミン銀行のムハマド・ユヌス氏に関する映像が長々と出てきたり、その次にオーケストラの演奏が入ったりと、あっちこっち行っちゃって、意味不明だと感じた視聴者が多いのでは。
辞任した小山田氏や小林氏などが演出チームに参画していたように、当初はもっと日本のサブカル色を押し出したものにしようという意図があったと思うが、その意図自体は良かった。日本のゲームやアニメなどのサブカルが世界で評価されているのだから、それを前面に出そうという発想は間違いではない。今さら長々とありきたりなプロジェクションマッピングを見せるくらいなら、サブカル色を押し出して“とんがった演出”にしたほうが、たとえ賛否両論が起きたとしても、ショーとしては良かったように思うし、少なくても世界の人々の記憶に残る開会式になったのでは。
たとえば、前回のリオ五輪のときの“安倍マリオ”なんか、個人的に傑作だと思っている。次の五輪開催国の首相が、世界的に知られた日本のアニメキャラクターのマリオに扮して“地球の裏から土管に入って出てきました”なんて、やっぱりわかりやすいし、面白い。そういう、人々をあっと言わせるような“ベタだけど斬新”っていう見どころがなく、盛り上がったのは結局、ドラクエのテーマ曲が選手入場で流れたところだけというのは、ちょっと寂しい。
当初の野村萬斎やMIKIKOのチームが担当する演出がすごく楽しみだったので、もし彼らが手掛けたショーが実現されていれば、どうなっていたのかと考えると、非常に残念。今回の開会式が日本、そして世界の人々の記憶に残るものになったのかは、微妙ではないか」
また、広告代理店のクリエイターはいう。
「特に冒頭のパフォーマンスは、大勢の人たちが好き勝手に踊っているだけという印象で、“結局、何を言いたいのかよくわからない”という一言に尽きる。“全体を統括するリーダーがいないと、こういう結果になる”という典型的な失敗例。一連のゴタゴタで最後まで演出を統括する責任者が定まらなかった結果が如実に出ていて、“やってしまった感”を受ける。スマート五輪ということで“極力お金をかけない”“派手さに頼らない”という意図は理解できるが、五輪史上まれにみる最低の開会式といわれても仕方ないのでは」
果たして世論の感想はいかに――。
(文=編集部)