【オウム真理教・7人同時死刑執行】賛否両論巻き起こる死刑制度について江川紹子の提言
オウム真理教の教祖、麻原彰晃こと松本智津夫ら7死刑囚の刑が執行された。7人を1日で執行というのは、戦後では、1948年12月23日にA級戦犯7人が処刑されて以来の大量執行となる。
これについては、さまざまな論評がなされている。
なぜ7人の死刑を同時執行したのか?
私自身は、教祖の死刑執行については妥当だが、(1)教祖一人ではなく、かつての弟子6人を同時に執行したこと、(2)なぜこの6人を選定したのかが明らかでないこと、(3)なかには初めての再審請求を提出したばかりの者もいて、その者についても執行したこと――については遺憾である旨を、さまざまなメディアを通じて申し述べてきた。
特に、(2)と(3)については、今後の死刑制度の在り方に関わる問題でもある。今回の執行を機に、制度についても考えてみたい。
教祖と同時に執行された6人について、法務省は人選の理由を説明していない。従来、法務省は、同じ事件の共犯者の死刑は同時執行を原則にしてきた。しかし、今回の執行はその通りにはなっていない。たとえば、麻原、中川智正、井上嘉浩、新実智光、遠藤誠一、土谷正実の6死刑囚は地下鉄サリン事件で有罪になっているが、同事件の実行犯らは今回は執行されていない。坂本弁護士事件で有罪になった麻原、中川、新実、早川紀代秀の4人は執行されたが、岡崎一明と端本悟の両死刑囚は今回の執行には入っていない。
今回の対象者を見ると、地下鉄サリン事件当時、オウム真理教が国家を模して、組織の部署名を「◯◯省」「××庁」を読んでいた時期に、各部署のトップにいて「◯◯大臣」「××庁長官」などと呼ばれていた教団幹部たちだ。麻原に最も近い人たちを選んで一時に執行した印象を受ける。これでは、教団の側から見れば、「尊師が高弟たちを引き連れて転生する」という絵柄になってしまう恐れがある。
その一方で、有罪となった犯罪の多い順に7人を選んだ、と見る人もいる。たとえば、今回執行された新実や中川は坂本事件、地下鉄・松本両サリン事件など11の事件で有罪となるなど、坂本・松本・サリンプラント建設と3件で有罪になった端本より、はるかに多くの犯罪を犯している。
だが、そうすると、なぜ執行する人数を7人に決めたのか、という新たな疑問が浮かぶ。事件数が4件だった遠藤は執行されたのに、同じく4件の豊田亨が今回の対象になっていなかったなどの疑問も残る。
いったいどのような基準で7人の対象者を決めたのか、明らかにすべきだろう。執行後の記者会見で、上川陽子法相はこの点について聞かれても答えなかった。執行がこの時期になった理由についても、同法相は「個々の執行の判断に関わる重要事項なので差し控える」と言及を避けた。
法務省はこれまでも、この種の問いに応えてこなかった。しかし、命を奪うという究極の刑罰であるだけに、執行の基準や人選の理由、時期などについてはできるだけ公表し、余計な臆測や邪推を招かないようにする必要があると思う。
臆測飛び交う“死刑の政治利用説”
実際、今回、ネット上ではさまざまな臆測が飛び交った。
特に、現政権に批判的な人たちからは、政権が死刑を政治利用した、という趣旨の発言がTwitterなどでたくさん発せられた。森友・加計問題などで批判を浴びている政権が、批判の矛先をそらす、もしくは支持率アップのためにオウム関係者の死刑を執行した、という趣旨のようだ。
それは邪推、もしくは単なる願望の類いだと思う。現政権の不支持率は5月頃に底を打ち、支持率は徐々にではあるが回復傾向にある。そのうえ、国会も与党ペースで進んでいる。確かに、森友・加計問題に加え、前財務次官のセクハラ問題などもあって、審議日程は大幅に狂ったが、期間の大幅延長によって働き方改革関連法案を通し、カジノ法案も審議入りを強行。さらには参院定数を6増やし、合区になった「鳥取・島根」「徳島・高知」の、自民党候補者を救うためとしか思えない公職選挙法改正案の審議入りも決めた。
そもそも、死刑の執行をしたからといって、政権や与党の支持率にそれほど影響するとは考えにくい。