10月11日、豊洲市場が開場。東京都は、主流メディアを通じて祝賀ムードの醸成に腐心した。
小池百合子都知事も現地視察を行った。朝6時から寿司店を開けさせ、借り切りで食事。営業権を持つ築地の業者との対面を拒み続ける姿勢とは、対照的な熱の入りようだった。開場でごった返す現場の意向は眼中になかったようだ。
都が総力を挙げたプロモーションにもかかわらず、豊洲の幕開けには暗雲が垂れ込めた。早朝から火事が発生し、ターレに挟まれる人身事故も発生した。何よりも、異常な渋滞で豊洲から築地に戻るだけで1時間以上かかった。
豊洲の実態は「巨大な物流倉庫」。人が働き、食品が動く「市場」とは程遠い。真水や海水、氷の調達や駐車場の確保、動線の設計など、早くから指摘されてきた構造的な不備も残されている。豊洲の今後については、稿を改めたい。
豊洲は開場したが、築地市場が廃止されたわけではない。農林水産省に対し、都は廃止の手続きを取っていない。現在も、公設市場として築地市場はあり続けている。
豊洲開場の当日から、「築地市場営業権組合」に加入する業者有志は築地で営業を継続している。営業日には買い物客が訪れ、完売が連続する勢いだ。
現存する公設市場で営業権を持つ業者が商いをし、客が訪れ買い物をする。法的にはなんら問題ないし、ごく自然な光景だ。しかし、築地のこうした営みに「排除の論理」を持ち出してくる向きがある。ほかならぬ東京都である。
11日午前8時、築地正門前。買い物客の入場を東京都中央卸売市場の職員2人が制止した。2人は口々に「築地市場は閉場」と主張したが、買い物客は入場する。2人は「外に出てください」と“個人的お願い”を繰り返すしかなくなった。
その後、職員のひとりは無断で買い物客の顔を動画撮影。もうひとりは営業する業者に対し、「豊洲で営業させない」とまったく根拠のない恫喝を行った。
都の横暴は止まらない。17日には築地市場を閉鎖。18日午前11時、青果門付近では、やはり解体工事業者が買い物客の入場を拒んだ。都の職員の姿は見えない。
「仲卸に品物を取りに行かないといけない」と繰り返し説明する客に抗しきれず、15分すぎには入場。都の職員は、場内でまたも指をくわえて見守るしかなかった。
「原発とは違う。築地はいつでも再稼働可能です」
業者のひとりは、そう明言した。豊洲移転賛成派も含め、業者の本音は「築地に残りたい」だ。数々の不備が明らかになっている豊洲でなんらかの問題が発生したときに備え、選択肢として築地を残しておくことは危機管理上も意義がある。
都は19日、築地市場正門を鉄条網で封鎖。法に基づかぬまま、「閉場」を意地でも押し通す構えだ。都はすでに築地市場の解体を始めているが、アスベストを含む建物も壊せるのか。営業権を持つ業者が働く領域に、いかなる根拠を持ってシャベルを入れるのだろう。法治からかけ離れた権力行使に邁進する姿勢には監視が必要だ。
小池知事は、現状をどう見ているのか。見解を問おうと、同日、都庁で行われた定例記者会見に出席した。小池知事は「お尻が決まっている」と、質疑では都庁記者クラブ加盟社の記者のみを指名。質問の機会は得られなかった。
築地は死んでなどいない。
(文=片田直久/フリーライター)