高知県土佐市で、「地域おこし協力隊」として移住し、カフェを開業していた人物が、“地元の有力者”から追い出されかけ、相談した市の職員も「有力者には逆らうな」という態度を取っているとの告発が、大きな騒動になっている。
土佐市には全国から批判が殺到し、なかには脅しや殺害予告のような穏やかならぬメールや電話もあるという。騒動を受けて18日、板原啓文・土佐市長が公式サイト上で見解を発表した。
事の発端は、5月10日に「崖っぷちカフェ店長@理不尽な退去通告、私物化されたNPO法人と戦う」とのツイッターアカウントで投稿されたツイートだ。
【拡散お願いします】
— 崖っぷちカフェ店長@理不尽な退去通告、私物化されたNPO法人と戦う (@kurumi121422) May 10, 2023
田舎はどこもこうなんですか?
地域おこし協力隊として東京から高知に移住したのに、地元の有力者に従わなかったら出ていけと言われました。市役所も言う通りにしろと言います。
「Twitterで発信します」と言ったら「たかがSNSや」と鼻で笑われました。現状を知ってください。 pic.twitter.com/udCYfTK1pG
このカフェ店長は、東京から土佐市に「地域おこし協力隊」として移住し、同市が所有し、NPO法人が指定管理者となっている建物「南風(まぜ)」でカフェを開業し、これまで約8年、順調に経営してきた。だが、先述のNPO法人の理事長パワハラやセクハラの被害を受け、この理事長の意向に従わなかったところ、建物から退去するように圧力をかけられているという。
さらにこの理事長の横暴な言動について市職員に相談したところ、「『尻でも触らせて機嫌をとればいい』と冗談めかして言われていたので相談できずにいました」と暴露。市が町の有力者に好き放題させている様子が浮かび上がる。
カフェ店長は、「『地域おこし』のオファーを受け、多くの人に愛されるようなカフェを作ってきたのに、『意にそぐわない』からと、不正なやり方で追い出そうとする地元の有力者と、それにただ追従する行政に、地域おこしなど不可能だと思います」と怒りをあらわにした。
SNS上でこのツイートが拡散されると、土佐市には電話やメール、SNSでのメッセージなどが殺到。Business Journal編集部も電話で問い合わせをしたが、あまりの電話の多さに担当者が対応しきれず、「後日HP上で見解を発表する」との回答だった。
市長とNPO法人の見解
板原市長は18日にHP上で、「本件に関し、土佐市民の皆様をはじめ多くの関係者の方々にご迷惑ご心労をお掛けしたことに対しまして、大変申し訳なく思っております。この場をお借りしましてお詫び申し上げます」と謝罪。
続けて「5月10日の夜から、メールや電話で今回のSNSでのツイートによる苦情の電話やメールが殺到しております。公共施設への爆破予告メール、子どもの誘拐予告、私自身への殺害予告もあり、小中学生の下校時間を切り上げるなど、現在でも市民の日常生活にも多大な影響が出ております」と、反響の大きさを綴った。また、「当市への電話の中には無言電話、電話に出た職員に対して穏やかでない発言もあり、私といたしましては、市民を守る立場であるとともに、職員の安全を守る立場でもありますので、今回のような脅迫行為や、平穏な日常生活を脅かすような発信行動に強く憤りを抱いています」として、行き過ぎた抗議行動に怒りをあらわにした。
さらに、板原市長はSNS上でカフェ店長が告発した内容について、「事実と異なる部分も多数」あるとしつつも、「それらすべてに反応するつもりはございません」との立場を説明。NPO法人とカフェの双方が弁護士を立てて協議しており、土佐市としても顧問弁護士と協議中であるとの事情も明かした。
一方、騒動の舞台となっている建物を管理するNPO法人「新居を元気にする会」も、理事長の横山昌市氏の名前でコメントを発表。カフェ側とは弁護士を通じて交渉しているなかでSNSに投稿された、と不快感をにじませつつ、「事実関係につきましては、今後説明したい」との見解を述べた。
3者がそれぞれに代理人弁護士を立てていることから、弁護士同士での話し合い、もしくは裁判での決着となるとみられるが、事態は単にカフェ店舗の存続のみが焦点とはならないだろう。
カフェ店長の告発によると、NPO法人の理事長は、法人の総会を開いていないにもかかわらず、“全会一致”で退去が決議されたとする退去勧告の書類を作成した疑惑もある。これが事実であれば、有印私文書偽造の刑事事件にもなりかねない。また、契約内容次第ではあるが、店子の立場を守る借地借家法の観点からも、退去勧告に正当性がないと指摘する専門家もいる。事実がつまびらかにされれば、当該NPO法人が指定管理者として適切なのかも議論の的になるのではないか。
地元を牛耳る有力者が、自分の意にそぐわない“よそ者”を追い出そうとする構図は、全国で散見されるようだ。件のカフェ店長の告発以降、ほかの地域で似たような経験をしたという声が相次いでいる。波紋はさらに大きく広がる可能性を秘めている。
ちなみに、問題の建物に関しては、過去にも入居が決まっていた事業者が、入居直前に件のNPO法人と折り合わなかったために、入居を取りやめるという事態が起きている。
(文=Business Journal編集部)