●出産の障壁を乗り越える
そこで今回、この「子どもを産みやすくする方法」そのものの検討をしました。
なお、検討に際して、「卵子の老化速度の低下」 (『老いをあざむく』<ロジャー・ゴスデン/新曜社>)や、まったく実現性のめどの立たないSF(サイエンス・フィクション)的な方法は採用しておりません。
(1)出産時期のコントロール
パートナーが望む時期に、出産を可能とする方法を提案します。
具体的には、「キャリア」と「出産・育児」の問題、つまり「出産年齢の上限(特に卵子の老化の問題)」に対しては、できるだけ若い時期に「卵子」を冷凍保存し、キャリアが軌道に乗った後、または結婚の後に、その卵子を使う妊娠を検討します。これは現在実現されている技術で、健康な未婚女性に対しても、認容する方向になってきています(産経ニュース記事『卵子凍結容認を決定 健康な未婚女性も 生殖医学会が指針』)。なお、精子や受精卵の凍結も現在の技術で可能です。
(2)出産のアウトソーシング
パートナーの女性の母体を使ずに妊娠・出産する方法を提案します。
具体的には、人工授精、体外受精等の方法で受精した胚(ここでは受精卵といいます)を、ほかの女性の子宮に着床させて育ててもらう「代理母出産」を検討します。また、現時点では実現されていませんが、母親から抽出したES細胞やiPS細胞を使って子宮の臓器を別につくり出し、そこで受精卵から胎児に至るまで育てるという方法も検討します。
(3)育児のアウトソーシング
育児の一部または全部を、別の手段で代替する方法を提案します。
具体的には、古くからあるベビーシッターの機械化、自動化を検討します。「子どもを寝かしつける」「授乳を行う」「おむつを取り替える」という作業は、――超高度な制御と、完璧な安全を前提とすれば―― 「技術」として置き替えることが可能と考えます。
●それぞれのメリットと問題点
では、各論を検討してみます。
「(1)出産時期のコントロール」とは、前回記事『不妊治療、なぜ女性を蝕む?~卑怯な男性、周囲の無理解、医療の進歩が闇を深くする』において説明した方法で、卵子、精子、または受精卵を取り出し、マイナス196度という超低温の中で、老化を防ぐものです。原理的には保管期間の上限はありません。
しかし、以下の問題点があります。
・冷凍保存によらないART(生殖医療)より、妊娠の確率が上がることはありません(冷凍保存によらないARTでも、最良の20歳前後で30%、40歳を越えると10%以下になる)。
・また、費用もかなり高額になります。卵子1回の採取で約30万円、10年間の冷凍保存で約100万円かかります。
・また、卵子を冷凍保存したことによる安心感で、肝心のパートナー探しのモチベーションが低下し、結果として、いつまでたっても冷凍卵子を使わないという事態も招いているそうです。