設定(註1)の中では、この理由は明らかになっていないようですが、私はひとつの仮説として、イスカンダルの行政府が、有効かつ具体的な少子化対策を行わなかったからではないか、と考えています。
私は今回のコラムの執筆に先立ち、現在の我が国の少子化の傾向が、そのままずっと続いたらどうなるのかを、簡単な人口変動予測シミュレーションプログラム(以下シミュレーションプログラム)をつくって、自宅のパソコンで計算してみました。ちなみに、後輩の話によると、プログラム言語の講習会でよく使われるサンプル事例だそうです。
・西暦3000年に、日本の人口は1189人になります。大きめの小学校の校舎に全員収容できる程度です。そして、その年の新生児は8人です。
・3122年に新生児は誕生しなくなり、そして、遅くともその100年後の3222年には、日本には誰もいなくなります。なお、今回は浮動小数のままで計算したので、実際はもっと早い時期になると思います。
–なんだ。結構、あっけないものだな。
気分は「祇園精舎の鐘の声」という感じでしょうか。
私は以前寄稿したコラム(「なぜ、福島原発“5重の壁”は簡単に壊れ放射性物質が放出した?」)を書くに当たり、原発や核について調べながら、原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物の保管「10万年」という期間に、絶望的な気持ちになっていたのですが、今回の計算で、その期間の1.1%も待つことなく、(計算上は)我が国はなくなってしまうのだと思ったら、なんというか–随分と気分が楽になりました。
●少子化は今後どうなるのか?
こんにちは。江端智一です。
今回のコラムのテーマは「『結婚』を中心として、いろいろなことを計算してみる」です。
日本国政府は今、いろいろな社会問題について「ヤバイ!」と叫んでいます。具体的には、「少子化」「高齢化」「年金」などが挙げられます。
現実に、私の生活を見ても、娘たちは成績や進路について悩んでおり、そして私は娘たちの教育費や将来に不安を感じています。私の両親はいずれも要介護認定を受けており、ひとりは病院でベッドの上で何本かの管をつなぎながら生きています。この原稿は、帰省した実家のキッチンのテーブルで、父親の食事をつくりながら執筆している状況です。
ですから、「ヤバイ!」のはよくわかっているのですが、その「ヤバイ!」の全体像が、いまひとつつかめないのです。
–この「『ヤバイ!』の集中攻撃」は、いったい、いつになったら終わるのだろうか?
–というか、終るのか?
今回、私は、「結婚」を軸としたいろいろな疑問について、自分自身で計算をしてみることにしました。すなわち「専門家でない、ただのITエンジニア」が、週末に、自宅のパソコンで、現在入手可能なデータとパラメータ値を使い、乱暴な仮説を立て、簡単なプログラミングで計算を試みた結果を示すものです(註2)。
今回のコラムでは、政府発表の未来予測数値をひとつも使っていませんが、政府発表と私の計算結果は、「気持ち悪い」と思うくらい一致するケースがあったということを留意しておいてください。
では、始めましょう。
[江端の疑問その1] 現在の少子化傾向を放置した場合、将来の日本の人口はどうなるのか? (註3)
図1に、現時点の人口ピラミッド(平成22年)を示します。
ここから将来の人口がどのように変化していくかを計算するに際しては、ここ数年の「合計特殊出生率」と平成22年度の「年齢別死亡率」という数値を使いました(極端に言うと、この2つだけしか使っていません)。
「合計特殊出生率」とは、結婚、未婚、同棲などをまったく考慮せず、単に15歳以上50歳未満の女性が、現実に出産した平均人数を示すものです。今回のコラムでは、ここ数年の平均値として、“1.4”という数値を用います。
まず、この “1.4”という数値の異様さを理解していただきたいと思います。
一般に、子どもは一組の女と男のカップルから生まれます。“1.4”という数値は、乱暴にまとめると2人の人間から1.4人の人間しか誕生しないということです(実際には結婚をしない人、または子どもをつくらないカップルもいるので、あくまで統計上の値となります)。