少々話はずれますが、パートナーの精子を使う人工授精または体外受精をAIH(配偶者間人工授精/Artificial Insemination by Husband)といいます。これに対して、男性パートナーに無精子症等の不妊原因がある場合に、パートナー以外の(例えば、パートナーの親戚等)の精子を使って妊娠をサポートする方法を、AID(非配偶者間人工授精/Artificial Insemination by Donor)といいます。
このAIDを前提として、「パートナー探し」どころか「パートナー不要」という選択も行われています。『夫はいらない。子どもをつくるためだけに、ドナーの冷凍した精子をもらって、自分と子どもだけで生きる』という生き方を希望する女性は現実に存在しますし、そのようなAIDをサポートする法人もあります(非合法ではありません。次回、詳細にご報告します)。
「(2)出産のアウトソーシング」の代表的な手段が「代理母出産」です。女性の子宮は、人種、年齢、性格など無関係に、完全な赤の他人のパートナーの受精卵を育てる能力があるからです。しかも代理母の特性(遺伝情報)は、まったく継承されません。子どもの遺伝子は、受精時に決定するからです。例えば、日本人のカップルの受精卵で、外国の女性に産んでもらっても、生まれてくる子どもは100%日本人カップルの特性のみを受け継ぎます。
しかし、以下の問題点があります。
・「代理母出産」は非合法ではありませんが、日本では某学会による自主規制が支配的で、不可能ではありませんが国内での実施は難しいです。(『生殖医療と生命倫理』<編集・出版/日本学術協力財団>)
・生まれてきた子どもは、原則「養子」扱いとなります(次回、詳細にご説明します)。
・費用も莫大です(海外での代理母出産のケースで、およそ1000万円)。
・また、出産は命懸けで行うものであり、それを他人にアウトソーシングすることは、モラルの面から問題があり、心理面においても代理母が子どもの受け渡しを拒否したという事件(ベビーM事件)があります。
・そもそも「代理母出産」は、国内に20万人はいるといわれる子宮(卵管)障害等の女性の最後の希望の光であり、これを「仕事」として「金銭」と引き換えに行うことは、凄まじい非難を免れないです。
これに対して、ES細胞やiPS細胞を使って、母親の子宮を人工的につくり、その人工臓器(人工子宮)を使って出産させるという方法なら、社会的な合意は得られそうです。
しかし、以下の問題点があります。
・子宮という臓器を「つくり出す」ことは可能になると思いますが、その子宮を「運用・管理・制御」するめどが、立たないのです。子宮は単体では胎児を育てることはできず、脳からのホルモン分泌の指令や、血液による酸素や栄養の供給なしには動かないからです。
・この検討を推し進めていくと、最終的に「出産専用の母親のクローン」にたどり着いてしまいますが、そんなクローンをつくることが許されるのであれば、この問題自体が発生していないはずです(クローンについては、次回ご説明いたします)。
・ES細胞、iPS細胞を前提としない方法(例えば、化学物質およびコンピュータ制御等)についても調べてみたのですが、どうしても、人工的に製造できない体細胞組織(胎盤)があり、それが人工子宮の開発を困難にしているようです(『デザイナー・ベビー』<ロジャー・ゴスデン/原書房>)。