ブラジルの調査会社ダタフォーリャが今年2月に行った世論調査によると、ワールドカップの自国開催に賛成する国民の数は、2008年時点の79%から52%に大幅減少、反対する立場の国民は同10%から38%へと大幅に増加している。
同社の調査によれば、国民の80.2%が、W杯開催のために投じられる多額の資金は医療や教育に使われるべきだ、と考えているという。
昨年、FIFAコンフェデレーションズカップ2013(コンフェデ杯)が開催された時に、ブラジル国内20都市以上で行われた医療・教育費の改善を求めるデモは、累計100万人を超え話題になったが、その後も各地で継続的にデモは続いている。
ブラジル第2の都市リオ・デ・ジャネイロでは、W杯開催に伴い6万人の住民が転居を余儀なくされた。また、試合予定会場の12競技場の新築・改築に費やした36億ドルのうち、約9割は国民の税金で賄われている(当初の予定は10億ドル)。スタジアム完成が大幅にずれ込んでいるにもかかわらず、政治家から納得に値する十分な説明はなく、利権政治が横行している現状から一向に変化の兆しは見えない。
ところで、国民から反対の声が上がっているのは、インフラ含め、医療費、物価高など生活苦だけが理由なのだろうか?
今回は、現地の市民・サッカー関係者・メディアの声を中心に、さまざまな側面からブラジル国民がW杯に反対する背景を探ってみたい。
●変化したフットボールの質
ここ数年、経済成長に陰りが見え始めたとはいえ、ブラジル経済は確実に成長してきた。特に首都サンパウロやリオ・デ・ジャネイロなどの国際的な経済都市ほど、その傾向は顕著に現れている。だが、経済成長はサッカーの世界に思わぬ弊害を生んだ。独特のリズム「ジンガ」を育む場所として、ブラジルサッカーと切っても切り離せない「ストリートサッカー」のできる場所が年々減少しているのだ。
サンパウロ州のCAジュベントスで、プロ選手としてプレーしている磯部和彦氏は「ブラジルといえば、そこら中でストリートサッカーをしているイメージでしたが、正直こちらに来てから道端でサッカーをするブラジル人の姿は、ほとんど見ていません」と語る。
1980年代に、自身もブラジルで10年間サッカー選手としてプレーし、現在もブラジルと日本を行き来する今野英一氏の声も特徴的だ。
「現在も地方都市に行けば、ストリートサッカーに興じるブラジル人の姿を見ることはできますが、都市開発が進んだ大都市で見る機会はめっきり減りました。ストリートサッカーをできる場所が少なくなっていることは、昔と比べクラッキ(名手)が少なくなりつつあるブラジルサッカーの質の変化と無関係ではないと思います」