出版不況といわれて久しいが、その中でなぜ、この本が売れるのだろうか?
大手書店の新書担当店員は「ブラック企業経営者の生態を浮き彫りにし、猟奇モノ、ホラー書籍のような感覚で、一気に読み進められるところが魅力。身近な職場を扱った話題ということも相まって、ブラック企業に悩む大勢のビジネスパーソンの共感を得たのではないか」と話す。
●理想の社員像は“使い倒せる人間”
これまでも“ブラック企業”を扱った書籍は数多く出版されてきた。だが、そのほとんどがブラック企業に虐げられてきた従業員側の視点から描かれたものだ。しかし、本書は、ブラック企業の経営者側からの視点に立って書かれており、経営者の本音を炙り出している。
中でも興味深いのは「我が社の理想の社員像は“使い倒せる人間”や」とうそぶくIT系社長へのインタビューだ。「社員を長く手元に置くつもりなど、さらさらない」「“勤務時間応相談”とは、会社側の相談に応じろという意味」「2~3年、腰掛けで来てくれるくらいが丁度いい」など、毒々しいブラック企業経営者の本音が次々と出てくる。
従業員サイドから見れば驚きの発言の数々だが、ブラック企業経営者の発想を知ることは、雇われる立場の人にとって自らの身を守る上でのヒントとなるはずだ。
経営者側が「長く雇うつもりはない」というスタンスであれば、従業員側もそれを承知した上で、バイト感覚で働いて、自分の都合に合わせてブラック企業を切り捨てていけばいい。
本書は、読み方次第では「悪魔の書」だ。人を雇い入れ、安価な賃金でこき使い、その上がりをかすめ取る。そして使い倒して、切り捨てる。いわば新手の詐欺師ともいえるブラック企業経営者のノウハウが詰まっている。
社会人として頑張っていこうと意欲に燃える若者を、意図的にしばらく無視。そして、到底1人ではこなせない量の仕事を与えることでミスを誘発。そのタイミングで罵声を浴びせ、「もしかして給料が支払われないかもしれない」「クビになるかもしれない」思わせることで、馬車馬のように働かせる。こうして社員は“社畜”と化していく。
●新興宗教に酷似しているブラック企業
秋山氏は、このようなブラック企業経営者が従業員を洗脳していく手口は「新興宗教が信者を増やし、囲い込む手口」に似ているという。
新興宗教が教祖をカリスマとし、信者を囲い込み、教祖の著作やその宗教に関連するグッズ各種を売りさばく。そして信者にノルマを課して新たなる信者を獲得させる。売り上げは教祖の懐に納まっていく。
洗脳してゆく過程、都合の悪いことは徹底して隠すなどの内部ルール、収益の搾取といった新興宗教が用いるスキームは、意識しているか否かにかかわらず、ブラック企業経営者が用いている手口そのものだという。
戦慄のブラック企業経営者の発想や洗脳の手口などを余すところなく詳説した本書は、今、ブラック企業に勤めている人はもちろん、就職・転職を控えている人、そして経営者を目指す人に、企業とは、働くこととは……ということを、あらためて考えさせてくれる。
(文=編集部)