–本書で紹介されている企業は、“強制労働所”としかいいようがありませんね。
溝上憲文氏(以下、溝上) 創業者は24時間365日働いてきたので、社員に対しても「俺みたいに働け」と労働基準法を無視して仕事を強要しがちです。社員は創業者のように働くことは無理だと思っても、嫌々働くので心身ともにすり減ってしまう。一方、創業者は理念や口上をセミナーなどを通じて社員に浸透させ、会社に順応しやすい人間にしてしまうのです。
そうなると、社員には辞めたいという思いがあっても、なかなか口に出せなくなってしまいます。「社長に叱られる自分が悪い」「ノルマを果たせない自分が悪い」という過度な自己責任意識が生じてしまうからです。
–そういう企業で社員が「辞めたい」と口にすると、経営者はどういう行動に出るのですか?
溝上 まずは怒りだします。社員は自分の分身だと思っているので、「俺を裏切るのか」「俺に足向けするのか」という心境になって、異常に怒りだすのです。
–退職を希望する社員を辞めさせないために、そうした企業はどのような手段に出るのでしょうか?
溝上 最も多い手口は次の5つです。
(1)「辞めるのは悪だ」と責め立て、説得を繰り返す洗脳的行為に出る。
(2)悪口を言いふらしたり、懲戒解雇をちらつかせて転職を妨害する。
(3)身代わりの人材や損害賠償の要求など、脅迫的な言葉を繰り返す。
(4)暴言や暴力を振るって怖がらせる。
(5)経営者や上司が自宅まで押しかけるストーカー行為を繰り返す。
これら5つの手口はきれいに分類できず、多くの場合は複合的です。
–社員を使い捨てにするブラック企業とは逆の意味で、常軌を逸していますね。
溝上 社員を使い捨てにする企業でも、理不尽に辞めさせない企業でも、経営者や上司の心理状態は同じです。どちらも社員を使い潰しているのです。辞めさせない企業も、ブラック企業であることには変わりありません。