漏えいすると国の安全保障に著しい支障を与えるとされる情報を「特定秘密」に指定し、それを外部に知らせたり、外部から知ろうとしたりする人などを処罰する「特定秘密の保護に関する法律」、いわゆる「秘密保護法」が昨年12月に成立、公布された。審議の過程においては、「特定秘密」の対象となる情報が曖昧なため、政府が都合の悪い情報を「特定秘密」に指定して国民の目から覆う恐れがあるなど、多方面から反対の声が上がる中での公布となったが、同法に対して、思わぬところからクレームが出ている。
東京・大手町の証券会社に勤める英国人証券アナリストは、まず日本の政府とメディアへの批判から切り出した。
「私たちは日本の政府や新聞の情報を信頼していません。なぜなら、例えば日本を代表する全国紙は重要な話を隠蔽するからです。記事を読めば、すぐにそれがわかります。原発事故でもTPPでも集団的自衛権でも、勝手に話を分類して、政治的にマイナスだと判断したら報道しない。とてもおかしいと思うのは、大事なことを日本の国民に伝えていないのに、海外向けの英字版にはちゃんと記事が出ていたりすることです。それをもとに外国のメディアが追加取材して報道したら、それを逆輸入するかたちで国内に報道する。これはとてもおかしな話で、やり方がずるいと思います」
●“日本離れ”加速の懸念
その上で同氏は、秘密保護法が海外企業・投資家の“日本離れ”を加速させる懸念を次のように指摘する。
「国家として秘密保護法は必要だと思いますが、記者や国民が捜査や取り締まり、逮捕の対象になる可能性がとても高い。政府が国民に隠している情報を暴露した記者が、逮捕されて有罪になる法律など、私の国にはありません。以前、米国雑誌の特派員が『日本の行き過ぎた秘密保護法で、外国人投資家は日本市場への投資をリスキーだと判断するだろう』と話していました。報道の自由が制限されれば、市場関係者に中立で客観的、正確な経済情報が届きません。
私たちは株式市場に直接的・間接的に影響を及ぼすさまざまな情報を収集して分析し、その結果を機関投資家や個人投資家に提供するのが仕事なので、分析するための素材である情報が命。その情報が信頼できなければ分析などできませんから、投資家にも伝えられないのです。そういう懸念の声が市場関係者の間でも上がっています。これから先、日本の株価が心配です」
安倍政権は積極的に経済外交を展開し、日本への投資を呼びかけているが、秘密保護法がその阻害要因になりかねない事態となっているようだ。
ちなみに同法は、公布日である13年12月13日から1年以内に施行される。
(文=藤野光太郎/ジャーナリスト)