法人税減税などいくつかの目玉政策がある中で、異彩を放っているのが「混合診療の解禁」だ。しかし、この混合診療の解禁は、結局のところ金持ち優遇政策でしかない。医療にも貧富の格差は歴然と存在しているのだ。
混合診療とは何か。日本には、公的医療保険が適用される「保険診療」と保険が適用されない「保険外診療」がある。この公的医療保険を使った診療と保険外診療を併用することを混合診療と呼ぶ。
現状、混合診療は原則的に認められていない。もし、保険診療を受けていても、その治療の過程で保険適用が認められていない治療や投薬を一部でも受けると、本来は保険診療だった検査、入院、手術、投薬などの費用がすべて保険の適用から外れ、全額が自己負担となる。
具体的に説明しよう。例えば、がんの治療を保険診療で行い、その時の診療費用が100万円だったとする。この場合、本人の負担は公的保険の種類によって変わるが1~3割のため、100万円の診療費用に対して自己負担は10~30万円になる。
一方で、保険外診療になる200万円のがんの新薬を使ったとする。この場合、新薬の200万円と診療費用100万円の合計300万円が自己負担となる。これが、混合診療が認められるようになると、診療費用の自己負担額が10~30万円で済み、新薬の200万円との合計210~230万円の自己負担で済むことになる。
ちなみに、「現状、混合診療は原則的に認められていない」と書いたが、いくつかの例外がある。例えば、入院の際に個室を使った場合の差額ベッド代がその一つだ。保険診療に含まれない個室(保険外診療)を使った場合、本来なら保険診療部分も全額自己負担になるが、個室料金だけを差額ベッド代とし、保険診療はそのまま認められている。また、新薬の安全性や有効性を確認するために行う治験に参加した場合も例外措置が取られている。
●混合診療解禁は金持ち優遇政策?
確かに、保険外診療を行った場合に、本来保険が適用されるはずの診療分まで全額自己負担となるよりは、混合診療が認められるのは朗報といえるだろう。しかし、ことはそれほど単純ではない。
例えば、高齢者が多く罹患する白内障のケースでは、保険が適用される単焦点眼内レンズ移植という手術がある。この手術はその名のごとく、焦点を一つに絞ったレンズを移植するため、結果的に眼鏡を使用する必要がある。一方で、眼鏡の使用がほとんど必要ない多焦点眼内レンズ移植は保険の適用外となっている。単焦点では、自己負担は保険の1割負担で2万円、3割負担でも6万円で済むが、多焦点では約50万円もかかる。
さらに、がん治療における陽子線治療や重粒子線治療は、それぞれ約300万円が自己負担となる。心臓移植手術までのつなぎの役割をする左心補助人工心臓システムは保険適用ではあるが、治療費用が1800万円以上もするため、自己負担額は1割負担でも180万円、3割負担なら540万円にも上る。
問題は混合診療ではなく、先進の治療法、新薬の値段が高すぎることにある。新成長戦略の目玉として打ち出された混合診療だが、仮に認められても、ここ数年で社会問題化しつつある、増加する低所得者にしてみれば、先進医療を受けたとしても高額負担を強いられることに変わりはない。つまり、結局は一部の金持ちしか恩恵を受けられない事態となりかねないのだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)