猫大量虐待?殺処分・遺棄横行か…動物実験や皮・肉の闇市場へ売却疑惑も
兵庫県伊丹市在住の主婦A氏は、約15年前から猫の保護を続けている。きっかけは当時の引っ越し先である同県尼崎市の自宅周辺やパート先に野良猫が多く、子猫が次々に生まれては死亡するのを見たからだ。A氏は、自腹で猫の避妊去勢手術をしたうえで里親探しも行った。5年ほどして仲間が1人でき、インターネットで里親を募集するようになった。
こうしてA氏は年間で子猫を55匹ほど保護し、そのうち約50匹を譲渡するようになった。引き取ってもらえない子猫たちは自宅で保護するうちに年々増えていき、現在伊丹市の自宅では約35匹を飼っている。
A氏は2011年10月、友人から「保護した猫のぷーちゃんの里親を探してほしい」と頼まれた。そこで、自身が運営しているウェブサイト「いつでも里親募集中」に載せたところ、大阪府枚方市に住む男性B氏から連絡がきた。
メールでB氏とやり取りする限り誠実な印象を受けたため、A氏は仲間と共にB氏宅を訪れ、直接ぷーちゃんを見てもらうことにした。B氏宅は2階建ての古い長屋で、2階の一室は猫専用の部屋になっており、猫のトイレ、ベッド、キャットタワーがあった。B氏は猫に慣れている様子で、キャットフードを皿に入れてぷーちゃんに与えた。B氏の職業はパソコン修理業で、アルバイトも時々していると答えた。A氏はぷーちゃんを渡しても大丈夫と判断し、譲渡した。その後しばらくは、B氏から写真入りで「しっかり飼っている」とのメールが届いた。
ぷーちゃんが行方不明に
同年12月21日、A氏は別件で保護したペルシャ猫の里親募集をネットで告知したところ、B氏から応募があった。もう一匹飼いたいのかと思ったが、話していくうちにA氏はB氏の様子がおかしいと感じた。B氏は、「初めまして」とあいさつをし、「今は生後3カ月の子猫を飼っている」と述べた。
ぷーちゃんの月齢と異なるため、「ぷーちゃんは元気ですか?」と聞くと、B氏は慌てた様子で、「ぷーちゃんは友人に預けている」と答えた。A氏はぷーちゃんの安否が気になりB氏の家を訪ねたが、ぷーちゃんはおらずコテツという子猫がいるだけだった。
B氏は、「コテツは友人が保護した猫で、慣らすために自分が預かっている」「ぷーちゃんはコテツが嫌がり怒るので、友人に飼う練習のため預けた」「ぷーちゃんは元気にしている」などと説明した。A氏は「一刻も早く、その友人からぷーちゃんを返してもらってほしい」と求めた。その友人は、京都府八幡市の男山団地にいるという。
翌22日、B氏は「友人と連絡がつかない。友人はぷーちゃんを殺してしまったかもしれない。これだけ連絡よこさないのは、それくらいのことをしてしまったからではないか」と語ったため、不安に思ったA氏は「弁護士や警察に相談しようと思っている」と告げたところ、すぐにB氏から電話がきて、「『12月18日に窓を開けたら、ぷーちゃんが脱走してしまった』と友人は言っている」と説明した。A氏の仲間に対して「20日に脱走した」と語っていることから、このB氏の供述は虚偽であるとA氏は考えているという。
A氏は24、25、26、27日と男山団地まで行き、ぷーちゃんを捜し続けたが、見つからなかった。なお、A氏はコテツも危ないと感じたため、「コテツを預かりたい」と強く求めて引き取ったが、そのコテツがつけている首輪はぷーちゃんのものだった。首輪だけ残っていることに大いなる疑問が生じる。
被害者はほかにもいた
翌年1月11日、A氏は神戸にいる猫ボランティアの知人から、「B氏に猫を渡した後、その猫が行方不明になったという人がほかにもいる」との連絡が入ったためA氏が調べたところ、9人が同様の被害に遭っていることが明らかになった。
今回、そのうちの1人、大阪市此花区在住のC氏に話を聞いた。以前、C氏宅の近所の河川敷に、小屋を建てて住んでいる家族がおり、その小屋には猫が数十匹住みついていたが、ある日家族はいなくなり、猫だけが残ったという。そこでC氏夫妻はその猫たちにエサをやっていたが、日がたつにつれて数が減っていったので残った数匹を自宅で保護し、そのうちの1匹について里親を募集したところ、B氏から申し込みがあり譲渡した。その後、何度かB氏から「猫は元気にしている」といった報告のメールが届いていたが、猫ボランティアをしている知人からB氏の噂を聞き調べたところ、すでにいなくなっていることが判明したという。
被害者たちは、動物愛護団体・THEペット法塾代表で大阪市に事務所を置く植田勝博弁護士に相談し、B氏を動物愛護法の虐待・遺棄容疑で刑事告訴したが、検察の調査によりB氏の部屋に動物の血痕はなく、証拠不十分で不起訴となった。
被害者たちは、B氏に譲渡した猫の返還と1人当たり100万円の慰謝料等を求め、大阪地方裁判所に提訴した。昨年1月の一審判決は、B氏に対し被害者1人につき10万円超の賠償金の支払いを命じ、同年6月の二審判決でも20万円超の賠償命令が下ったが、いずれの判決でも猫の引き渡し請求については、猫の特定が「不可能ないし著しく困難」という理由で棄却している。
なお、植田弁護士が代理人をした事件で、似たような案件がある。大阪市在住の20代の女性が、猫の里親募集をしていた計8人から14匹を引き取ったが、ことごとく遺棄していたとみられている。この事件では、07年に被害者8人それぞれに20万円弱の賠償金を支払うこと、および猫の引き渡しを命じる判決が確定した。
このような判例を踏まえ、B氏に対しても猫の引き渡しを求めて、現在は最高裁判所で争っている。
なお、植田弁護士に「B氏は猫をどこへやったと考えているか」と訪ねたところ、「B氏に直接問い詰めたが、最後まで猫をどこにやったのか答えなかった」と言い、その上で「関西には、猫を動物実験や三味線の皮に使うための闇市場がある。そこに持って行った可能性もある」と推論を述べた。
また、中国には闇市場で1000匹単位の猫の肉や毛皮を売りさばく犯罪集団もいるという(14年12月25日付英紙インディペンデント電子版より)。こういう組織に売却している可能性もあるだろう。
このB氏をめぐる猫遺棄容疑事件は、関西圏ではテレビ等で盛んに報じられたが、現在も猫は見つかっていない。その点からみても、闇市場に猫を売りさばいた可能性は高いのかもしれない。譲渡、遺棄、殺処分、虐待…ペットをめぐる闇は深い。
(文=佐々木奎一/ジャーナリスト)