WHO(世界保健機関)は5月14日、人工的トランス脂肪酸を世界の食料供給から撲滅するための独自ガイド「REPLACE」を発表した。このなかでWHOは、トランス脂肪酸の供給源などをレビューし、それを健康的な油脂への切り替え、使用禁止を法制化すると明記。2019年から23年までの5年間で、トランス脂肪酸を撲滅するよう世界に呼びかけている。
これに対して日本政府は、トランス脂肪酸を禁止するどころか野放しで、これを含む脂質に関する情報を自主的に開示することを事業者に求めることしか行っておらず、トランス脂肪酸から国民の健康を守ろうという世界の流れから取り残されている。そればかりか、今、トランス脂肪酸問題を事業者任せにしているなかで、国民の健康にとって新たな脅威となる事態が生じているのである。
トランス脂肪酸は、菜種油やトウモロコシ油などの植物油に水素添加(常温で固化することを目的)をすることによって、発生する。食品メーカーは、このトランス脂肪酸の使用を避けるために、現在、急速に原料油をパーム油に切り替えてきている。トランス脂肪酸ゼロを謳うマーガリンなどには、このパーム油を原料としている商品もある。
WHOはトランス脂肪酸からより健康的な油脂への切り替えを求めているが、果たしてパーム油は、より健康的な油脂なのであろうか。
食品添加物「BHA」
以下は農林水産省のホームページ上の記述である。
「トランス脂肪酸が多く含まれる硬化油脂を、別の硬い性質を持つ油脂(例えばパーム油など)に代替すれば、トランス脂肪酸は低減できますが、すでに平均的に見て取りすぎの傾向にある飽和脂肪酸の含有量を大幅に増加させてしまう可能性があります。米国農務省(USDA)は、食品事業者にとってパーム油はトランス脂肪酸の健康的な代替油脂にはならないとする研究報告を公表しています」
要するにパーム油は、脂肪酸のほぼ半分が飽和脂肪酸で、摂りすぎると血液中のLDLコレステロールが増加し、心筋梗塞や糖尿病などのリスクが増加するため、決して健康的な代替油脂ではないのだ。それを農林水産省も認めているのである。
それどころかパーム油は、さまざまな問題を含んでいる。パーム油は全量インドネシアやマレーシアなどから輸入しており、長期間の船上輸送による酸化を防ぐために、酸化防止剤としてBHA(ブチルヒドロキシアニソール)という食品添加物が用いられている。このBHAは、1998年に食品衛生調査会で、次のようにラットに対する発がん性を確認している。
「ラットでは明らかに発がん性がある」
「BHAは膀胱がんを促進します」
「この『BHAの発癌機構』は、実際問題、非常に難しいところがありまして、まだ完全には解明されていないというのが実情なんです」
つまり、発がんシステムがわかっていないことを認めているにもかかわらず、同調査会では「発がん性について、直ちにヒトで問題があるというふうには思えない」として、使用基準を改正し、パーム油にもBHAを使えるようにしたのである。ラットに明確に発がん性があり、発がんシステムもわからないBHAが、パーム油に堂々と使われているのである。
食品表示でパーム油の使用わからず
パーム油はほかにも問題を抱えている。名古屋市立大学名誉教授で日本食品油脂安全性協議会理事長の奥山治美氏は、著書『本当は危ない植物油』(KADOKAWA)のなかでパーム油について次のように語っている。
「パーム油はラットの大腸ガンの発癌を異常に促進する(略)パーム油はリノール酸含量が多くないので、これらの作用は、パーム油に含まれる微量成分の採用であると推測されます。また、脳卒中ラットの寿命短縮作用などが認められており、内分泌かく乱作用もあります。パーム油は食用油としては不適と思われます。他にも、マウスの寿命を異常に短くすると報告されています。そして、脳卒中ラットでは精巣テストステロンを下げるとされています」
パーム油の使用量は、日本の植物油の総供給量264万8000トンのうち、その約4分の1を占める64万7000トンに及んでいる。その使途の35%がマーガリン、ショートニング、その他食品加工用が31%となっている。マーガリン、ショートニング以外に、即席麺やパン、フライドポテト、チョコレート、アイスクリーム、スナック菓子などあらゆる加工食品に使われている。ところが、食品表示上は植物油としか表示されておらず、そこにパーム油が使われているかどうか、わからないのである。
食品安全上さまざまな問題が指摘されているパーム油は、食品に使用しないようにすべきであり、少なくとも早急に食品表示上パーム油使用と明記されるようにすべきである。
(文=小倉正行/フリーライター)