A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによって汚染された食品や水などを摂取することで発症するが、厄介なことに潜伏期間が平均4週間(2〜7週間)もあり、発症した時は原因食材がわからない場合が多いということである。発症すると、発熱、全身倦怠、食欲不振、悪心、嘔吐、黄疸などの症状を呈し、肝機能が悪化して死亡する場合もある。
2000年13人、01年12人、02年9人、03年6人、04年5人、05年12人、06年5人、07年5人、08年7人、09年8人と、10年間で82人が亡くなっており、毎年100人から500人が感染している。さらに、このA型肝炎の治療薬・治療法はなく、ひたすら症状が消失するまで絶対安静にするだけである。
感染経路だが、A型肝炎に感染した人の糞便が河川に流入、またはし尿の海洋投棄によって、その海域が汚染され、それが二枚貝などに蓄積したりするケースが多い。中国では、1988年に上海で、A型肝炎ウイルスに汚染されたハマグリが原因で、29万人もの患者が発生するという大規模感染があった。
日本では下水処理能力の向上により、国産二枚貝のA型肝炎ウイルス汚染率は、1996年〜00年の5.3〜7.9%であったものが、00年〜06年では1.3〜1.8%と下がってきており、日本ではA型肝炎ウイルスは常在していないとされる。
●お粗末な検疫の実情
問題は、輸入食材である。12年の食品安全委員会の資料によれば、輸入二枚貝等の汚染実態調査では、01年4月〜02年1月でアサリ7.7%、ウチムラサキガイ50%、06年4月〜09年2月で、ブラックタイガー5.7%の汚染が明らかになっている。A型肝炎ウイルスは、東南アジアに常在しているとされる。それだけに、水際での侵入の阻止が必要なのである。
しかし、驚くべきことに、06年度まで厚生労働省は、検疫で輸入食品のA型肝炎ウイルスやノロウイルスなどのウイルス検査を一切してこなかった。筆者は07年に出版した『輸入食品の真実』(宝島社)で、「日本がウイルス検査を確立すれば、輸出国も輸出の際にウイルス検査をして、ウイルスに汚染していない食品を輸出するようになるであろう。現に、香港では、輸入時にA型肝炎ウイルスとノロウイルスの検査を行っている。日本ができないはずはない。考え方を変えるべきだ」と指摘した。
厚労省も、やっと07年度から、食品輸入検疫時にA型肝炎ウイルスとノロウイルスに関する検査を始めた。開始した07年度は検査件数がわずか8件、それも韓国から輸入される生食用の赤貝だけというお粗末さであったが、その後件数は増加し、14年度はA型肝炎ウイルス707件、ノロウイルス363件まで増えた。その結果、ノロウイルスの検出が12件に上った。今のところA型肝炎ウイルスは輸入時に検出されていないが、なにせ検査件数が少なすぎる。