昨年11月26、27日の2日間にわたり、「現場からの医療改革推進協議会シンポジウム(現場シンポ)」を開催した。今年で11回目だ。
このシンポジウムは、私と鈴木寛・東京大学教授(当時参議院議員)が呼び掛け人となって10年前に始まった。さまざまな分野の専門家が集まり、議論を深め、自分たちでできることからやっていこうという主旨だった。
今年もテーマは多岐に渡った。そのなかで、とりわけ参加者の注目を集めたのは、子宮頸がんワクチンの副反応から回復した人たちの経験談だった。
このセッションには、4名の母親が登壇した。彼女たちの話にはリアリティーがあった。娘の調子がおかしくなったときに、非常に心配したこと、最初に受診した医師は十分に話を聞いてくれなかったこと、情報を集めるために、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会(被害者連絡会)に加入したこと、最終的には自らの判断で食事療法などの民間診療を選択し、娘が回復したことなどを紹介してくれた。
彼女たちは、非常に理性的だった。ワクチンの問題を強調せず、多くの副反応に心因的な要素が強いことを認めた。ある母親は「症状はワクチンがトリガーとなった心因性である子がほとんどでないか」と主張した。
一方で、西洋医学的アプローチが娘たちの症状の回復にあまり貢献しなかったことを強調した。このことは示唆に富む。民間診療の専門家と比較し、私たち医師はコミュニケーション力が弱いのだろう。
対照的に、民間診療の専門家は患者の意見を傾聴し、共感し、そして自らが信じる治療行為を提供した。ある母親は「R先生の施術であっさり痛みがとれた」という。ここでは、施術の科学的妥当性は議論しない。医学的・薬学的には効果のない薬品投与や治療によって患者が回復や治癒することを「プラセボ効果」と呼ぶが、そのような民間診療の専門家の診療態度が、患者に対して「強力なプラセボ効果」を与えたのではなかろうか。治療者として見習うべき点が多い。そして、このような経過こそ医学論文として記載し、世界の人々と情報を共有しなければならない。
意外だったのが、情報開示・共有に否定的な人がいたことだ。彼女たちが、娘が回復した旨を被害者連絡会に伝えたところ、この情報を会員には提供せず、むしろ彼女たちにこの情報を開示しないように圧力をかけてきたそうだ。
ある母親は、「娘が回復した時、 連絡会に食餌療法で回復したことを伝え、連絡会内でも回復情報を共有してほしいと提案したが、却下された」と明かした。 別の母親は、「当時会がつくっていた掲示板にその旨を書き込んだところ、掲示板自体が消された。数日後、事務局長から電話があり治ったことを告げたら、『もう連絡いらないわね』で話が終わる。次々にSNSでブロックされる。事実上会から除名されたような状況となった」と配付資料に記した。
彼女は「被害者連絡会はなくなるべき」と主張する。これでは、被害者そっちのけでもイデオロギー闘争に明け暮れている感じだ。いい加減、こういうことはやめてはどうだろうか。
こうした証言について、事実確認も含めて被害者連絡会の見解を聞くべく、今月上旬に4日連続(平日ベース)で複数回にわたり同会HP上に掲載の電話番号に電話をかけたが、いずれも不在であった
徹底的な議論が必要
当日は、大勢のメディアの方も来ていた。シンポジウムのあと、お母さんたちのインタビューをとった記者もいた。果たして、記事になるだろうか。ちなみに、ある新聞の記者に話したところ、「うちは、この問題は社内の都合で扱えない」と言われた。
また、シンポジウムには国会議員や官僚、医学界の重鎮の方々もいた。彼らは、この問題を国会や審議会で議論できるだろうか。
現場シンポのモットーは、それぞれが自分の現場でベストを尽くすことだ。子宮頸がんワクチンをいかに日本社会に根付かせるか、そのためには国民の合意形成が欠かせない。メディアが正確な情報を伝え、そのような公開情報をベースに政府や議会でオープンに議論すべきだ。医学界でも、患者視点に立ち、徹底的な議論が必要だ。
今回のシンポで、お母さんたちは勇気を振り絞って、自らの経験を説明した。これからは我々医師の出番だ。私たちの矜持が問われている。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)