10月20日午後2時ごろ、東京都武蔵野市の東急百貨店吉祥寺店前の都道(吉祥寺通り)で乗用車が歩行車を跳ね、2歳の男児を含む男女7人が負傷した。いずれも命に別条はないというのが救いではあるが、起きてはならない事故である。
運転していた85歳の男は、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕されている。「アクセルとブレーキのペダルを踏み間違えたかもしれないが、よく覚えていない」と供述しているそうだが、近年、高齢者の運転について論議がなされていただけに、未然に防ぐ策はなかったのかと残念に思うばかりである。
高齢者の運転は、超高齢化社会となる日本が抱える問題のひとつだ。現在、高齢者の運転に関しては、更新の際に認知機能検査と高齢者講習の受講が義務付けられている。しかしながら、その内容に不安を感じるのは筆者だけではないだろう。
軽度認知症(MCI)が運転に及ぼす影響
現状では75歳以上のドライバーに記憶力や判断力を測定する検査が義務付けられている。時間の見当識、手がかり再生、時計描画という3つの項目について検査する。この3つの検査項目を調べることで、認知機能に問題があるかどうかがわかるといわれているが、実際には認知機能に軽度の問題が生じていても判断が難しいのではないだろうか。
最近、話題となっている軽度認知症(MCI)は、「認知症とは診断できないが、正常とは異なる状態」をいう。MCIと診断された患者のうち、10~15%が1年以内に認知症に進行するとされている。MCIは「記憶」「決定」「理由づけ」「実行」などに問題が起きるものと定義されるが、どれかひとつに問題が起きても一見、日常生活には支障がない。しかし、運転となると話は別だ。
高齢者の運転で事故が起きやすくなる要因は、視覚機能の変化、視野の変化、聴覚機能の変化、判断の遅れと正確さの低下、予想外の運転、思い込み運転などが挙げられる。MCIは、特に判断の遅れと正確さの低下、予想外の運転、思い込み運転に大きく影響し、危険予測を著しく低下させると考えられる。
急がれる高齢者の運転免許証更新と医療の連携
あくまで筆者の見解であるが、高齢者の運転免許証更新には医療機関による認知症検査等の義務化を検討すべきではないだろうか。現在、認知症の診断方法には、「長谷川式認知症スケール」と呼ばれるチェックシートのほか、医療機関での血液検査と画像診断がある。血液検査によるMCIスクリーニング検査は、アミロイドベータが脳に沈着して脳の萎縮を引き起こすアルツハイマー型認知症の有無がわかる。画像診断ではCT(コンピュータ断層撮影)、MRI(核磁気共鳴画像法)で脳萎縮・脳溝脳室拡大など、脳の形態的異常を見る。また、SPECT(単一光子放射断層撮影)やPET(ポジトロン断層法)ではアルツハイマー病に特有な脳血流・代謝分布異常を知ることができるが、初期症状では特有な分布異常を示さない場合もある。
高齢者の認知機能の衰えを把握するには、本人および家族による日常生活の変化と医療機関での検査などを複合して判断する必要があり、運転免許更新時の認知機能検査だけでは十分といえないだろう。高齢者による自動車運転をどう規制するか、超高齢化社会への対策が急がれる。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)