元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな商品は「棚卸商品」です。
毎月、さまざまな場所で講演会をしています。参加者は、経営者、個人事業者、会社員のどれかで、みな、悩みや誰にも聞けない疑問を抱えています。
ぼくの講演会では、質疑応答の時間を設けていないので、どのような悩みがあるのかを吸い上げることはできないのですが、その日の打ち上げや懇親会で、参加者が互いに相談しあっているのをこっそりと聞いて、市場調査の代わりとしています。
年に数回は、保険会社から依頼を受けて講演を行っています。馴染みのない保険の税制を入念に調べて解説したり、税務調査の話をしたりしますが、グループワークの時間を設け、どんな支払いを経費にしているか、保険外交員(ライフプランコンサルタント)への税務調査がどのように行われるかを共有してもらっています。
保険外交員への税務調査
保険の販売業務を行うAさんは、業界に入って10年目です。税金や確定申告のことはよくわからないけれど、給与所得者ではないので、1年目の頃から所得税の確定申告を行っていました。
1年目、2年目と確定申告をしていくと、知識がそんなになく、多少いい加減な内容でも特段、指摘されることはないと感じたそうです。何が経費になるかわからないけれど、一応、会議費や接待交際費に入れ、領収証がなくとも“これくらいは使っただろう”と、恣意的に所得から控除していました。
青色申告の申請もしていません。青色と白色の違いはわからないし、青色だとさまざまな特典が受けられることも知りません。それでも不便はないし、税理士に頼むのも面倒です。ずっとこのままでよいだろうと考えていました。
仕事を始めて5年目のある日。住んでいる地域を管轄する税務署の個人課税部門から電話がありました。
「所得税の税務調査を行いたいので、平日の10時から16時頃までで、時間をつくっていただけますか? ご自宅にお伺いします」
突然の連絡に困惑したそうです。自分は何か悪いことをしたのだろうか。知らず知らずのうちに、脱税をしてしまったのだろうかーー。
しかし、知らないうちに脱税をしてしまうということはありません。脱税をしている人は、自分が脱税をしていることを必ず認識しています。
Aさんは信頼できる上司に相談し、この業界で自分たちのように平均以上に稼いでいる人間には税務調査があるものだと聞きました。それでも心は休まらず、調査の日まで眠れない日々が続いたそうです。
2年分の経費をすべて否認される
約束の日、奥さんと子供にはでかけてもらい、Aさんは一人で対応することにしました。税理士に頼めば税務調査に立ち会ってもらうこともできますが、そんな知識もありませんでした。
調査にやってきた30代の男性は、4年分の帳簿書類を見せてほしいと言いました。しかし、帳簿などありません。収支内訳書と確定申告書、レシートの束があるのみで、帳簿はつけていませんでした。
そのことに対し、調査に来た職員は批難こそしませんでしたが、1年目と2年目のレシートがないことを伝えると、怪訝な表情を浮かべていました。
「どうやって、経費を計算したんですか?」
「なんとなく、毎月の収入の内、これくらいを使っているだろう、という金額を適当に書きました。ただ、実際にそれくらいは使っているので大丈夫だと思います」
「いえいえ、まったくもって大丈夫ではありませんよ」
知識がなかったAさんは、領収証がなかったために2年分の経費をすべて否認されてしまいました。しかし、プロに言われたら、そういうものなのだろうと思ってしまいました。
実際には、客観的資料がなかったからといって、すぐさま否認されるわけではありません。税理士がおらず、本人に知識がないことを利用されてしまったのです。
税理士報酬を惜しまず、プロフェッショナルに立ち会ってもらえば、きっとこのような被害は発生しなかっただろうな、と話を聞いていて思った次第です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)