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さんきゅう倉田「税務調査の与太話」

確定申告で贈与税の申告→数年後、贈与が否定されて追徴課税!生前贈与の落とし穴

文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人
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「Getty Images」より

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな贈与は「暦年贈与」です。

 多くのお金持ちが相続税を圧縮するために、生前に贈与をします。しかし数年前、相続税の基礎控除が減ったことで、中所得者層も相続税対策が必要になりました。よくあるのは、贈与税の基礎控除「110万円」以内で毎年、贈与をする方法。税法に則った、素敵でシンプルなやり方です。

 次に多いのは、110万円を少し超える金額を贈与して、贈与税の申告をする方法。「申告したんだから、当然、贈与の事実はあった」という、証拠を残すために行います。

 確かに贈与税の申告は、贈与の事実のひとつの証拠となり得ますが、事実関係はさまざまな証拠を総合勘案して判断すべきです。ほかの要因があれば、申告をしていても、税務調査で「相続財産」とされてしまうかもしれません。

贈与税の申告をしたのに、贈与の事実が否定された

 むかしむかし、とあるお金持ちAさんのところに、相続税の税務調査がありました。相続税の調査は、相続税の申告をした人のうち、2割程度に行われます。亡くなってから10カ月以内に申告をしますが、申告をしてからすぐに調査の連絡があるわけではありません。2年、3年たってから行われることが多いようです。

 調査では、経営する会社の株の生前贈与が問題になりました。亡くなった方は株をAさんに贈与していましたが、調査担当者から「贈与の事実はなかったのではないか」「相続財産に含まれるべき財産ではないか」と指摘されました。

 しかし、株を受け取ったAさんは、その直後に贈与税の申告をしていました。積極的に申告をするくらいですから、贈与の事実はありそうです。仮に、申告をしていなければ、「なぜ申告しないんだ? 贈与の事実などないんだろう」と言われてしまいます。その逆はどうなのでしょうか。申告したことは、贈与があったことの十分な証拠となり得るのでしょうか。

 こんな日のために、Aさんは贈与税の申告書の控えを保管していました。税務署の申告書の保存期間が過ぎれば、証拠が無くなってしまうからです。申告の証拠は、Aさんの持つ控えしか存在しませんでしたが、申告を行った税理士が、申告書の作成を行ったと認めたことで、申告の事実そのものは否認されませんでした。

 しかし、贈与税の申告と納税は、贈与事実があったかどうかのひとつの証拠とは認めらますが、それだけでは贈与を認定することはできません。調査では、さまざまな要素を総合勘案して判断されます。

 贈与税の申告以外にも贈与の事実を示す客観的な資料を示さねばなりませんが、Aさんは何も提示することができませんでした。ただ、口頭で「贈与の事実があった」と言うのみです。

 調査担当者は、その主張を崩すべく、贈与の事実がなかったという証拠を集めます。まず、亡くなった人はAさんに株を譲ったあと、その会社の取締役会で、Aさんが権利を行使するために通常行うはずの働きかけをしませんでした。

 また、亡くなった方は、所得税確定申告書に添付する「財産及び債務の明細書」に、贈与があったとする日以降も“贈与前の株数”をずっと記載していました。これでは、贈与がなかったのではないかと推認されてしまいます。

 さらに、その後に行われた株券発行時にも贈与前の株数で処理され、株式の評価明細書にも贈与前の株数が記載されていました。そのため、贈与税の申告書以外の書類などから、贈与の事実がなかったと判断され、相続財産に含められることになりました。結果、多くの追徴課税を支払うことになったのです

贈与税の申告をしただけでは贈与の事実の証明にはならない

 そこでAさんは、「贈与していないにもかかわらず、贈与税の申告をするメリットはない」と主張しました。証拠は揃えられないけれど、事実に反する贈与税の申告をする動機がないというわけです。

 この動機については、真意を明らかにすることができないので推測になります。この会社は、上場を目指していました。上場すると株価が上がります。株価が大きく上がってから贈与や相続をすると、税負担が大きくなります。そのため、早期に株を贈与したように装った可能性があります。また、実際に贈与をしなかったのは、亡くなった方が、生前はそのまま筆頭株主としての地位を維持するためではないでしょうか。

 実は贈与税の申告によって、贈与の事実を成立させようとする方は、たくさんいます。しかし、それだけをもって贈与があったとされるわけではありません。あくまで、ひとつの証拠。安易に既成事実をつくれるとは思わないほうが賢明です。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)、『お金持ちがしない42のこと』(Kindle版)がある。
さんきゅう倉田公式ホームページ

Twitter:@thankyoukurata

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