ソフトバンクグループ(SBG)が東京国税局の税務調査を受け、2019年3月期におよそ400億円の申告漏れを指摘されていたことがわかった。損金の計上時期のズレや為替損益の計算誤り、タックスヘイブンにある関連会社の所得の計上漏れなどがあったが、過去の損失により法人税や消費税などの追徴課税は発生しなかった。
SBGは「国税局より経費計上のタイミングのズレ、外貨建て負債の換算ミスと海外関連会社の所得計上漏れについて指摘を受け、修正申告しました」とコメントした。
為替差損に関する計算誤りによる増差はおよそ170億円で、日本法人からドル建てで借り入れた負債の換算レートを誤って適用していたことによるものだった。これにより過大に計上された損失を、税務調査で否認された。
さらに、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を運営する海外子会社へ支払った成功報酬140億円も損金として認められなかった。
SBGは19年3月期におよそ4000億円の損失を計上しており、これが青色申告の特典により繰り越されているため、今回の400億円の申告漏れでは追徴課税は発生せず、繰越欠損金の減額にとどまったものと考えられる。
また、通信子会社のソフトバンクも東京国税局の税務調査を受けた。ソフトバンクは、およそ30億円の申告漏れを指摘され、本税と過少申告加算税を合わせた追徴税額は十数億円とみられる。ソフトバンクは「主なものは、費用の計上時期の相違から生じたもので、すでに修正申告した」とコメントした。
SBGが以前にも東京国税局の税務調査を受けたことは記憶に新しい。16年3月期までの4年間で約939億円の申告漏れを指摘され、翌17年に修正申告をしている。追徴税額は過少申告加算税を含めておよそ37億円だった。買収した海外企業が保有するタックスヘイブンの子会社の所得を計上していなかったことによるものだ。
費用や売上の計上時期については、税務調査でしばしば問題になる。大企業への税務調査では、中小企業のように重加算税の対象となるような不正が発見されることはほとんどなく、専ら計上時期のズレ、いわゆる“期ズレ”による否認が多いと聞いたことがある。
法人側の視点に立てば、利益の元となる売上は可能な限り後の決算期に、利益を減らす経費は前の決算期に計上したい。SBGやソフトバンクが、意図的に費用の計上時期を前倒ししたとは思わないが、19年3月期に計上した経費が期ズレとして否認されれば、20年3月期に認容することとなり、20年3月期の利益は減る。繰越欠損金が4000億円程度あるなかで、期ズレの指摘にどのような効果があるのか、興味深い。
なお、為替損益の計算誤りとタックスヘイブンにある関連会社の所得の計上漏れについては、単純に所得を増加させるものだと考えられるので、当然だが期ズレのような認容はない。
ここで、SBGの繰越欠損金について振り返りたい。SBGは19年3月期第3四半期決算短信で、「繰延税金資産を認識していなかった繰越欠損金を使用したことにより、法人所得税が345,228百万円減少しました。また繰延税金資産を認識していなかったソフトバンク(株)に対する投資に関する将来減算一時差異の解消により、法人所得税が60,349百万円減少しました」と発表している。
3452億円の法人所得税の減少であるから、1兆円以上の繰越欠損金を使用したことになる。なぜ、このような巨額の繰越欠損金を保有しているのか。おそらく、ARM再編がその原因と考えられるが、定かではない。
複雑になった税制に比例して、企業のタックスプランニングも複雑化している。それに対応するための国税局や調査担当者の努力を想像すると、万感胸に迫る。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)