それは、保険である。
そう聞いても、ピンとこない人も多いのではないだろうか。家は現物が手に入るので実感しやすいが、保険は保障を買うもので実体がない。毎月の保険料が引き落としになっていると、光熱費などと同じ感覚になってしまうかもしれない。
ところが、その金額は驚くほど高いのだ。生命保険文化センターの調べによれば、1世帯あたりの年間払い込み保険料は平均で45.5万円。これを20年間払い続けたら1,000万円近くになる。30年なら1,300万円を超える計算だ。保障を厚くすると、その分保険料も上がるので、生涯では2,000万円以上を払うことになる人も珍しくない。
少し値が張る買い物をする際には、慎重に商品を検討したり、何社かの商品を比較したりするのが普通である。しかし、なぜか保険に関しては、この比較・検討がおろそかになりがちだ。
「近所の家の息子さんが保険の営業をしているから」「あまりにも熱心に勧めてくれるので……」などという理由で安易に契約しているケースが、じつに多いのである。また、「すでに保険に入っているけれど、知り合いに泣きつかれて仕方なく」といった感じで、もうひとつ保険に加入したりしていないだろうか。1世帯あたりの平均加入件数は4.2件だといわれているが、保険のかけすぎはまったくの無駄。毎月の支払いは小さくても、ずっと払っていくと高額になることを忘れてはいけないのだ。
●高い買い物だという自覚を
約8割の日本人が生命保険に加入しているという数字を見てもわかるように、世界を見渡しても日本ほど保険好きな国はない。もっとも、数年前までは約9割が保険に加入していたので、だいぶ見直しが進んできたとはいえる。
だが、保険の加入率を比較すると、アメリカでは約50%、イギリスでは約30%、ドイツでは約40%となっており、日本人がいかに保険好きかがわかる。
こういう状態が生まれた背景には、戦後の歴史も大きく影響している。日本では女性の自立が遅れて、大黒柱である男性に依存する生活が続いていた。そのため、大黒柱の死亡に対するリスク回避の意識が高かったのだろう。
しかし、現在は状況がずいぶんと変わってきている。「とにかく保険を」と加入するのではなく、自分にとって何が必要かを考えるべきである。
保険に加入するときには保険料の総額がいくらになるか、まずは計算をしてみたい。すでに加入している人も、これからいくら払うのか計算してみるといいだろう。そうすると保険に対する意識が変わってくるはずだ。
余分な保険はやはり無駄である。一度、自分の保険を見直してみることをお勧めする。
(文=長尾義弘/フィナンシャル・プランナー)