「改憲勢力3分の2届かず」「れいわ新選組、N国(NHKから国民を守る党)が議席獲得」――。第25回参議院選挙の結果を受け、この2点が大々的に報じられたが、見過ごせないのは50%を割り込んだ低投票率だ。
総務省によると、今回選挙の投票率は選挙区48.80%、比例代表48.79%で、1995年の44.52%に次ぐワースト2位の低投票率となった。その結果、自民党は選挙区の得票総数2003万票(絶対得票率18.9%)で改選数74のうち38(51.4%)の議席を獲得した。絶対得票率が2割を切りながら5割超の議席を獲得するという、納得しがたい現象が起きてしまった。
それにしても、投票率があまりにも低すぎる。今回の参院選には総額約571億円の経費が2019年度予算に盛り込まれている。巨額の経費をかけながら、有権者の半数以上が棄権というのが今の日本の民主主義のレベルなのだ。
直近の国政選挙で世界各国の投票率を調べてみた。
イギリス:2017年総選挙 68.7%
ドイツ:2017年連邦議会選挙 76.2%
フランス:2017年大統領選決選投票 74.6%
アメリカ:2016年大統領選 55.3%
OECD(経済協力開発機構)の「図表でみる社会2016」によると、OECD加盟国の選挙の平均は67%となっている。世界的に見ても日本の5割割れは異常水準だ。民主主義の政治システムが機能しているとはとてもいえない。この国の民主主義は幻影にすぎないのだろうか。
都道府県別投票率、ナンバー1は山形県60.74%、最低は徳島県38.59%
選挙区の投票率を都道府県別に見てみよう。投票率が50%を超えたのは18都道県。29府県は50%を割り込んでいる。前回2016年の投票率を上回ったのは高知県46.34%(プラス0.82ポイント)のみである。投票率のベスト5、ワースト5、当選者の政党は次の通り。
【ベスト5】
・山形県 60.74%(前回比-1.48ポイント) 無所属新人・野党系
・岩手県 56.55%(同-1.23) 無所属新人・野党系
・秋田県 56.29%(同-4.58) 無所属新人・野党系
・新潟県 55.31%(同-4.46) 無所属新人・野党系
・長野県 54.29%(同-8.57) 国民民主現
【ワースト5】
・徳島県 38.59%(同-8.39) 自民現(※高知と合区)
・宮崎県 41.79%(同-7.97) 自民現
・福岡県 42.85%(同-10.00) 自民現、公明新、立憲民主現
・青森県 42.94%(同-12.37) 自民現
・栃木県 44.14%(同-7.24) 自民現
投票率が高かったのはすべて1人区で、野党統一候補の新人4人が自民候補を破った。長野県以外の4県では大接戦を制している。野党共闘が実を結んだかたちだ。いずれの県も前回よりも低下しているが、選挙戦が激戦となったことが5割超の投票率につながったものと思われる。
投票率が38%台となった徳島県は前回選挙から高知県と合区となり、今回の選挙では与野党の候補者共に高知を地盤としていた。知らない候補者同士の争いでは投票に行く気が起きなかったのだろう。逆に高知県は全国で唯一前回を上回った。選挙区制度のあり方が問われそうだ。
台風5号に伴う九州地方の大雨も投票率に影響した。福岡、佐賀、長崎、鹿児島で前回よりも10%以上低下した。青森県の低投票率は、与党候補が序盤からリードしていたことに加え、統一地方選、県知事選に続く大型選挙で「選挙疲れ」が指摘されていた。
このベスト5、ワースト5を見ると、投票率が上がれば「草の根選挙」の野党系が有利になり、低投票率だと組織選挙の与党が有利になる傾向が歴然だ。
注目すべきは若者の投票率
史上2番目の低投票率となった今回の参院選で注目されるのは、若者の投票行動である。共同通信の出口調査結果では、20代、30代の4割超が比例代表で自民を選択したとされているが、保守ばかりではないだろう。街頭演説に多くの若者が押し掛けたれいわ新選組は比例区で約228万票を獲得し、得票率は4.55%に達した。消費税廃止、奨学金徳政令、最低賃金1500円といったれいわの政策に、若い世代はどう反応したのか。
朝日新聞の出口調査では、回答者の5%がれいわに投票したと回答。比例代表で同党に投票した人は40代が29%と最多で、40代以下と合わせると6割を占めたという。既成政党に飽き足らない若い世代が、れいわを支えたのは間違いなさそうだ。
問題は、若者の投票率。今回の年齢階層別の数字は2カ月後ぐらいに抽出結果が発表されるが、18~19歳の投票率(速報値)は31.33%だった。ちなみに前回(2016年)の参院選では、20~24歳が33.21%で最低。18~19歳は45.45%だったから、今回は大幅に低下した。前回の投票率の最高は70~74歳で、なんと73.67%。若い世代のそれとあまりにもかけ離れている。
投票率68.7%を記録した2017年の英国総選挙では、18歳から24歳の若者層の投票率が66.4%に達したという。2015年は43%だったので20ポイント以上アップした。背景には「反緊縮」を掲げ、大学授業料の無料化や低賃金労働の廃止を訴えた労働党のコービン党首への共鳴があった。格差拡大や既存政治への不満を背景に「コービン・ブーム」が起き、若者が投票所に足を運んだのだ。最終的には、労働党は保守党を上回ることはできなかったが、保守党を過半数割れに追い込んだ。18歳から29歳の60%以上が労働党に票を投じた結果だ。
今回の「れいわ旋風」は、英国の動きに通じるものがある。期待を寄せる有権者とは裏腹に「左派ポピュリズム」と批判的に見る向きもある。一過性のブームで終わるのか、大きな潮流となっていくのか。今回の参院選で選挙活動や投票所に足を運んだ若い世代の熱量が次の国政選挙に向けて持続し、さらに膨らむのかどうかも注目だ。
新たな潮流が生じたことで、微かではあるが日本の政治に変化の兆しが表れてきた。
(文=山田稔/ジャーナリスト)