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菅内閣、「山田真貴子・内閣広報官」大抜擢に永田町・霞が関が仰天した理由

文=小川裕夫/フリーランスライター
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菅内閣、「山田真貴子・内閣広報官」大抜擢に永田町・霞が関が仰天した理由の画像1
安倍晋三前首相の後を受けて新首相に就任した菅義偉氏

 7年8カ月にも及ぶ安倍政権が幕をおろし、9月16日に菅内閣が発足した。内閣が発足する前から菅内閣の閣僚人事はダダ漏れ状態になり、テレビ・新聞各社は逐一、それを詳報した。蓋を開けてみれば菅内閣は高齢議員が多く、しかも女性閣僚も少なかった。また、留任・再任の閣僚ばかりで新鮮味に欠け、サプライズともいえる大胆な抜擢はなかった。

 話題性に乏しい菅内閣の船出だが、一部の記者から注目された人材の起用があった。それが、内閣広報官に抜擢された山田真貴子氏だ。山田氏は総務省出身の官僚で、総務省では女性初となる審議官に就任した実力者。第一次安倍内閣で総務大臣として初入閣した菅氏にも仕え、第2次安倍政権では女性初の首相秘書官にも就任した。山田氏は、まさに菅首相の懐刀ともいえる存在でもある。

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菅首相が全幅の信頼を寄せる山田真貴子内閣広報官

 内閣広報官は2001年の中央省庁再編時に新設された役職で、官邸会見時に司会進行役を務める。官邸で実施される首相会見では、冒頭に首相から“発言”があり、その後に内閣記者会の幹事社、他社の記者、記者会に所属しない記者からの質問と進行していく。このうち、幹事社からの質問は代表質問と呼ばれ、世間的に関心が高い事柄について質問するため、どうしても形式的になる。首相は数字など正確な情報を答えなければならないため、幹事社の質問は事前に官邸側へ通告されるのが一般的だった。

 しかし、第2次安倍政権が発足してから首相会見は少しずつ変化していく。質問の事前通告は幹事社だけではなく、すべての記者に広がり、フリーランスなど統制の利かない記者は挙手をしても指名されなくなった。指名されなければ質問はできないから、安倍政権に致命傷となるような事態は起きない。つまり、第二次安倍政権において首相会見は官邸側と内閣記者会側とで出来レースを演じていただけで、国民はその茶番劇を見せられてたにすぎなかった。これは、有権者を愚弄する行為でもある。

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化すると、官邸会見は一変する。今年2月29日に実施した首相会見では、まだ多くの記者が挙手しているなかで官邸側は一方的に会見を打ち切った。露骨に短時間で切り上げようとした安倍首相に対して、ジャーナリストの江川紹子氏が「まだ、質問があります」と食い下がった。しかし、その声を無視して安倍首相はそのまま会見室から退出した。新聞各紙の首相動静によると、安倍首相はその後に公務の予定はなく、そのまま私邸に帰宅しただけだった。

 この会見が、大きな波紋を呼ぶことになる。3月2日の参議院予算委員会で蓮舫議員が「なぜ、江川さんが挙手しているのに、会見を打ち切ったのか?」と質問。安倍首相は「会見の質問は、事前に取りまとめている」と回答し、首相会見が出来レースであることを自ら暴露した。

 これが世間に不信感を募らせ、暗黙のルールとなっていた事前通告という悪しき慣習が打破されることになる。

安倍政権を支えた内閣広報官の暗躍

 事前に質問の取りまとめや官邸に不都合な質問をする記者を指名しないという、いわば官邸の守護神ともいうべき大役を担っているのが内閣広報官だ。

「内閣広報官が新設された当初は、重責を担う役職とは見なされていなかった。それは、首相会見を全編にわたって放送するメディアがなかったことも一因としてある。NHKは首相会見を生中継するが、放送するのは冒頭の首相発言まで。記者の質問部分は放送しないこともある。しかし、時代とともにネットメディアが台頭し、全編を生中継できるようになった。そのため、都合の悪いシーンが世間に流れてしまう事態が出てくる。その対策として、そもそも『都合の悪い質問をする記者を指名しない』という暗黙の流れができていった」(記者)

 そして、内閣広報官の役割が重要であることを印象付けたのが、第一次安倍政権の発足と同時に内閣広報官に就任した長谷川栄一氏だった。第一次安倍政権時はネット生中継は一般的に行なっていなかった。しかし、第二次安倍政権ではフリーランスの記者やネットメディアも首相会見に参加するようになり、それまでテレビ・新聞といった統制できる記者たちだけを相手にするわけにはいかなくなった。そのため、官邸は情報統制に苦慮するようになり、内閣広報官経験者で熟練の長谷川氏を呼び戻した。

 長谷川氏は司会進行役として、首相会見を全面的にコントロールした。政権にとって不都合な情報は漏らさないように努めた。こうした内閣広報官の暗躍が、安倍政権を長期政権に押し上げた原動力でもある。

 8月28日に安倍首相が退任会見を実施したが、「引き継ぎなどの関係もあって、長谷川広報官は退任せず、当面は続投するだろう」というのが大手紙の記者の見立てだった。9月16日に実施された菅義偉首相の就任会見では、内閣広報官は山田氏に交代していた。

 女性の内閣広報官抜擢は初であり、菅首相が山田氏に全幅の信頼を寄せていることが窺える。しかし、その手腕は未知数。今回、菅内閣はサプライズ人事がないといわれているが、実のところ山田氏の内閣広報官就任こそが永田町・霞が関の関係者にしかわからないサプライズ人事だったといえる。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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