「くそ!!やられたぞ!」
自民党北海道支部連合会のある道議は3月20日号の「フライデー」(講談社/3月20日号)を一読すると、そう怒りをにじませた。フライデーには『地元北海道で新型コロナウイルス感染者が増え続ける中…総務副大臣長谷川岳(49)が美人OLと「濃厚接触不倫」』と題する記事が掲載されていた。怒りの理由は、自民党北海道連会長代行の長谷川氏の不倫をスッパ抜いた講談社に対してではなく、参議院議員(北海道比例・日本維新の会)で地域政党新党大地代表の鈴木宗男氏に向けられたものだった。なぜ、長谷川氏の不倫が鈴木宗男氏に結びつくのだろうか。新型コロナウイルスで道民が大混乱し、学校が一斉臨時休校になっても、政争は休戦にはならないようだ。
北海道コロナウイルス騒動の中、OLと“密会”
フライデーは、長谷川氏が趣味のランニングを通じて知り合った不動産会社勤務の女性の存在を明らかにしたうえで、2月中旬から長谷川氏のマンション前で張り込みをしていたようだ。そのうえで、長谷川氏が女性と連日連夜の食事を共にし、同女性が長谷川氏の住むマンションで密会をしているという疑惑を報じた。長谷川氏はフライデーの直撃取材に女性の存在を「信頼しているパートナー」と弁解している。
ここまではよくある政治家の醜聞にすぎないのだが、ポイントは記事の文末にあった。以下、引用する。
「同じ、北海道を地盤とする参議院議員・鈴木宗男氏が断ずる。『鈴木直道知事をはじめ、地元の政治家は与野党を問わず、それこそ昼夜の別なく必至に感染拡大への対応を協議している。そんな非常事態にプライベートの時間を優先、ましてや不倫など、政治家と呼べない。いますぐ議員バッジを外すべきです』」
宗男氏のコメントに自民党関係者は次のように警戒心をあらわにする。
「長谷川氏の改選は2022年の予定です。“今すぐバッジを外す”かどうかは、ご本人の責任の取り方です。ただ、報道が道民に与えた印象は最悪です。次回は厳しい戦いを強いられるでしょう。つまり、盤石と見られていた北海道の自民1議席がぐらついている。では、これによって生じる1議席を、どこの誰が一番獲得したいと考えているのかということです。
宗男先生は受けた仇は、絶対に忘れない人です。普段はにこやかにしていますが、激しい方です。そして絶対に報復なされます。だからこそ、今も昔も多くの議員に恐れられているのです」
長谷川岳氏と鈴木宗男氏の因縁
宗男氏と長谷川氏の間には、宗男氏の長女、鈴木貴子氏が新党大地から自民党に合流するころから続く、根深い対立がある。つまり、自民党北海道連は今回の不倫報道に関して、宗男氏が裏で糸を引いたのではないかといぶかしんでいるのだ。
長谷川氏は愛知県春日井市出身。父親が体罰を含む指導方法で物議を醸した「戸塚ヨットスクール」の支援者だったため、自身も同スクールに在籍していた。北海道大学に在学中に今や全国区の広がりを持つ「YOSAKOIソーラン祭り」を考案。北海道ではその創始者として知られる。そうした知名度を生かして、自民党北海道連の公認を取り付け、衆議院議員選に立候補するも落選。2010年の参議院選で初当選した。現在は2期目で、安倍晋三首相が所属する細田派に所属する。
宗男氏との確執は2017年10月の衆院選に最高潮に達した。宗男氏が安倍首相と懇意だったこともあり、新党大地が旧民主党との協力関係を清算し、自民支援に転換。貴子氏とともに自民党への入党を打診したのだ。この時、自民党北海道連の選挙対策本部長だったのが長谷川氏だ。安倍首相ら党本部は宗男氏の集票力を期待し、貴子氏の自民党入りと比例区の名簿上位に処遇した。
ところが、貴子氏は旧民主党所属時代(北海道7区)の衆院選で自民候補を激しく批判していた。自民道連内には、党本部の処置に批判が殺到した。この批判のとりまとめを行い、二階俊博幹事長らに鈴木親子の自民党合流見直しを直訴したのが長谷川氏だったのだ。
自民党関係者は次のように語る。
「宗男先生も元自民党員です。つまり宗男先生や新党大地の支持層は自民支持層なのです。それが先生ご個人の迷走で、北海道の自民党票が分裂してしまいました。そのうえでの貴子氏の比例名簿上位処遇で、道内の議員の比例復活の可能性がつぶされたと考えたのでしょう。宗男氏はまた創価学会の支持者層からも評判がよくありません。
党本部は自民党全体の比例票の底上げを図りたかったのかもしれませんが、北海道連にしてみれば迷惑な話だったのでしょう。衆院選期間中、宗男氏が自民党候補者の応援演説に入ろうとしたら、立候補陣営に長谷川氏が『絶対に断れ』と圧力をかけていたことは公然の事実です。宗男氏は結局、新党大地で出馬され落選。貴子氏は当選しました」
宗男氏の政界復帰選挙の街頭演説で嫌がらせ
宗男氏は2019年の参院選比例区で今度は日本維新の会所属として立候補して当選。9年ぶりに国政に復帰した。この際も、新党大地と自民党は相互選挙協力を行っていたのだが、長谷川氏と宗男氏は確執を深めた。
地元紙記者は次のように話す。
「宗男氏が街頭演説の場所で自民候補と一緒になった際、自民候補は予定時間をはるかにオーバーして演説し、宗男氏には『お待たせしました』の挨拶すらなかったそうです。長谷川氏は宗男氏の存在を『学会(創価学会)の支持者も多いのに、どっか他のところに行ってくれないか』などと公言していました。宗男さんはその場では怒っていませんでしたが、ブログなどに当時の選挙戦の模様を克明に書き綴っていて、相当、腹に据えかねたようです」
長谷川氏の自殺点は宗男氏・維新勢力躍進の奇貨に
そうした経緯が、フライデーの宗男氏の「今すぐにバッジを外されたらどうか」の発言につながっているらしい。
前出の自民党関係者は話す。
「いま、自民党への世間の風当たりは強いです。一方で日本維新の会は虎視眈々と自民の議席を狙っています。宗男氏が維新に入党したのも偶然ではありません。北海道の議席獲得は維新の悲願でもあります。ここで長谷川氏の不祥事を奇貨として、1議席でも浮くとなれば一番喜ぶのはどこの政党かということです。宗男氏は、現在、評価がウナギ登りの鈴木直道北海道知事の後ろ盾の一人でもあります。
今後、自民党北海道連による今回のコメントに反発してさらなる報復も考えられ、政争が激化するでしょう。正直、今は不祥事に右往左往することなく新型コロナウイルスに挙国一致であたるべきだと思いますが、難しいでしょうね」
長谷川氏の公式ホームページには次のようなキャッチコピーが掲げられている。
「走っています。」(原文ママ)
走るのは結構だが、それを通じての不倫はいかがなものか。加えて、身から出たさびが、道民のためにならない不毛な政争を招くのなら、責任はやはり問われるべきだろう。
(文=編集部)