がん患者へのヤジ、過労死遺族への暴言…“命”の問題を軽視する安倍自民の責任と罪
尾辻氏は、何度も声を震わせ、ハンカチで目元をぬぐった。議場では、与野党を問わず、目頭を押さえる議員の姿があったという。そしてこの演説は、次のように結ばれた。
「先生は12月22日、黄泉の国へと旅立たれました。先生の最後のご著書となった『救える「いのち」のために 日本のがん医療への提言』は、先生が亡くなられる直前に、見本の本が病室に届けられました。先生は目を開け、じっと見つめて頷かれたそうです。その時のご様子を、奥様は告別式において次のように紹介されました。
『私は彼の手を握りながら本を読んであげました。山本は、命を削りながら執筆した本が世に出ることを確かめ、そして日本のがん医療、ひいては日本の医療全体が向上し、本当に患者のための医療が提供されることを願いながら、静かに息を引き取りました』
バトンを渡しましたよ、襷をつなぐようにしっかりと引き継いでください、そう言う山本先生の声が聞こえてまいります。(中略)あなたは参議院の誇りであります。社会保障の良心でした」
議場は、大きな拍手に包まれた。少なくとも、この時の国会は、命を削って法整備を訴える山本氏に対し、党派や意見の違いを超えて、敬意を表し、その思いを汲み取る努力をした。
それから10年。国会はなんという変わりようなのだろう。
12年12月の総選挙で初当選した穴見氏は、尾辻氏の追悼演説を生では聞いていないだろうが、これは今でもネットで見ることができる。全文を読むこともできる。だが、おそらく穴見氏は見ていないだろうし、読んでいないだろう。
国会の劣化が指摘されている。とりわけ穴見氏ら12年初当選組は問題が続出し、「魔の3回生」と呼ばれる。妻が出産のため入院中に不倫したことが週刊誌にすっぱ抜かれて宮崎謙介氏は辞職し、重婚疑惑などの女性問題が報じられた中川俊直氏は3期目の出馬を断念。秘書へのパワハラを暴露された豊田真由子氏、同僚議員との不適切な関係などが批判された中川郁子氏、酒や女性の問題を取り沙汰された橋本英教氏らは落選で国会を去った。
ほかに、「マスコミを懲らしめる」「(がん患者は)働かなければいい」などの失言や暴言を重ねている大西英男氏、被災地視察でおぶわれて水たまりを渡り、後にそれをネタにした失言で政務官を辞任した務台俊介、前川喜平・前文部次官の講演内容を文部科学省に照会させた池田佳隆氏、「必ず3人以上の子どもを産み育てていただきたい」「結婚しなければ子供が生まれず、人様の子供の税金で老人ホームに行くことになる」と発言して後に撤回した加藤寛治氏なども同期だ。
やはり同期の国場幸之助氏は、酒に酔って繁華街で通行人ともみ合いになり、傷害罪で書類送検されたが、書面で謝罪コメントを出しただけで記者会見も開いておらず、自民党も厳重注意で済ませている。そして、今回の“穴見暴言”だ。