苦境マック、好調スタバ、何が明暗分けた?復活策を探る 価格を買う顧客を集めた副作用
そこで米濱氏は招集した役員会で、ちゃんぽんに使用する野菜をすべて国内産に切り替え、コストが上がった分は価格を引き上げて対応することを居並ぶ役員の前で提案します。当時はデフレ真っただ中であり、値下げする企業はあれど値上げする企業は皆無に等しく、多くの役員は米濱氏の提案に激しく反対しました。
ただ、米濱氏は、リンガーハットを救うためには価格から価値へのドラスティックな転換が必要不可欠だと主張し、自分の信じた路線を強行します。
そうはいっても、本当に価格から価値への転換が成功するかどうかは実際に行ってみなければわかりません。米濱氏は、“新生”長崎ちゃんぽんが販売される当日、店舗を視察し、賑わっている店内や食べ終わって満足そうに出ていく顧客を見てようやく成功を確信したそうです。そして、この価格から価値への転換が功を奏し、リンガーハットはV字回復を成し遂げ、今でも成長が続いているのです。
●マクドナルド、不振脱出の鍵
価格で勝負しても、もちろん成功を収めることは可能です。それはハンバーガー業界でいえばマクドナルド、牛丼業界でいえば吉野家やすき家が、驚くべき低価格戦略でデフレ時代に快進撃を続けたことでも証明されています。
ただ、ビジネスの歴史を振り返ると、その成功は永遠に続くものではなく、成功が大きければ大きいほど、後にその副作用に悩まされるケースがほとんどです。価格で集めた顧客は、飽きやすく、躊躇なくブランドスイッチするなど、安定的な顧客基盤とすることが難しいからです。
一方で価値に納得して購入した顧客は、価格などでは浮気をしないロイヤルカスタマーとなる可能性も高くなります。大幅な顧客流出で業績がなかなか上向かないマクドナルドは、これまで価格を買う顧客を集めてきた副作用に悩まされていると診断できます。
この不振から抜け出し、かつての輝きを取り戻すためには、価格から価値を重視するビジネスに転換を図ることが、一つの有効な処方箋となるのではないでしょうか。
(文=安部徹也/MBA Solution代表取締役CEO)●安部徹也(あべ・てつや)
株式会社 MBA Solution代表取締役CEO。1990年、九州大学経済学部経営学科卒業後、現・三井住友銀行赤坂支店入行。1997年、銀行を退職しアメリカへ留学。インターナショナルビジネスで全米No.1スクールであるThunderbirdにてMBAを取得。MBAとして成績優秀者のみが加入を許可される組織、ベータ・ガンマ・シグマ会員。2001年、ビジネススクール卒業後、米国人パートナーと経営コンサルティング事業を開始。MBA Solutionを設立し代表に就任。現在、本業に留まらず、各種マスメディアへの出演、ビジネス書の執筆、講演など多方面で活躍中。主宰する『ビジネスパーソン最強化プロジェクト』は、2万5000人以上のビジネスパーソンが参加し、無料のメールマガジンを通してMBA理論を学んでいる。