資産運用として、給料以外の副収入を得る手段として、よく注目されるのがFX(外国為替証拠金取引)だ。
手軽に始められるということで、特に投資の経験がない人でも「思い立ったが吉日」とばかりに飛び込んでしまいやすいFXだが、この世界は機関投資家や長年のトレード経験を持つ「プロ」がひしめく世界である。素人がいきなり利益を出せるものではない。勝とうと思えばそれなりの準備が必要だ。
『初心者からプロまで一生使える FXチャート分析の教科書』(総合法令出版刊)は、十分な準備をせずにFXを始めることに警鐘を鳴らしつつ、勝つための準備と戦略を解説する。今回は著者である投資家・鹿子木健さんにお話をうかがい、FXを取り巻く現状と、投資初心者が犯しやすいミス、利益を出すために必要な考え方などについて教えていただいた。その後編をお届けする。(前編はこちら。※外部「新刊JP」サイト)
■FX初心者が危ない 撃沈をさけるためにやるべきこととは?
――投資のなかでFXをどんな位置づけにすればいいのかについてもお話をうかがいたいです。FXだけをやるというのは、鹿子木さんから見ておすすめできるやり方ですか?
鹿子木:その人がどんな資産運用をしたいのかによるのですが、これまで一度も投資をしたことがないという人の場合は「FXだけやる」のはおすすめできます。
というのも、資産運用のための投資としてFXをやるのであれば、身につけることや知らなければならないことは多いですから、他の投資と並行してやるのは現実的に厳しい。先のことは先のこととして、まずはFXをものにして、安定して利益を出せるようにするというのは賢明だと思います。
――投資としてのメリットはどんなところにありますか?
鹿子木:メリットとしては「流動性」と「換金性」です。
普通預金は口座にお金が入っている限り、銀行でもコンビニのATMでも、どこでも下ろせますよね。FXの口座もそれに近くて、常に現金を預けておけますから、チャンスがあったら投資してとって少し増やす。チャンスがなければそのままにしておく、ということができます。
投資信託や外貨預金だとそれはできなくて、投資したら投資し続けていないといけません。FXはそれとは対照的で、勝てそうな時だけ投資するということができるんです。だから、安定して利益を出せるようになれば、金利が高い預金口座という感じになります。
――本書ではFXの基礎知識からチャート分析の手法、ポジションのとり方まで詳しく解説されています。「初心者からプロまで」とタイトルにありますが、どんな風にこの本を使って欲しいとお考えですか?
鹿子木:FXの初心者に対しては、これから始めるうえでの羅針盤にしていただけたらいいなと思っています。この本一冊読めばプロになれるとは言いませんが、これだけ情報が溢れている世の中ですから、情報を得られないために失敗する人よりも、まちがった情報を信じて変な方向に向かってしまう人の方が多いので、この本を使って確かめながら進んでいただきたいです。
プロの方やプロ級の方、トレード歴が長い方に対しては、自分自身のトレードをよりシンプルにして、余計なものをそぎ落として、極力負ける要素を排除するために役立つのではないかと思っています。
――「チャート分析でしか稼げない」とされていました。チャート分析以外のやり方にはどんなものがあるのでしょうか。
鹿子木:ファンダメンタル分析が代表的です。これは国の経済基盤だとか財政とか、産業構造、GDP成長率などの指標から通貨の値動きを予想していくというやり方なのですが、通貨取引は「その国の経済が好調なら通貨が買われる」というようなロジックでは動いていないんですよ。経済が好調でも通貨は売られるということは普通にあるので。
――それならば、これまでの値動きをグラフ化したチャートを分析する方が適している、と。
鹿子木:そうですね。チャートを見る方が自分でコントロールできる部分が増えると思います。値動きの中に法則性を見つけて、それに基づいて予想していくという方法で、もちろん外れることはあるのですが、分析手法を身につければ大きく外すことはそこまで多くありません。たぶん、「空が曇ってきたら雨がふりやすい」とか「雲がなかったら温度が上がりやすい」というのに近いと思います。
相場というのは色々な思惑を持った人間の心理の集まりなのですが、全体としては「行くべきところ」に行くものです。その群集心理を視覚化したものがチャートなんですね。チャートの値動きという「過去」を見て、次に起こることを予想していく。具体的には「ちょっと上がりかけているから、もっと上がるかもしれない」とか「いつも下がっているあたりまで下がったから、このあたりで反転して上がるかも」ということで、法則にのっとって「いつも起きていること」を基準にするわけですから、厳密にいえば「予想」とも言えないかもしれません。
――FXで初心者が犯しがちな間違いやミスについて教えていただきたいです。
鹿子木:こんなことを言うとあまり喜ばれないかもしれませんが、いきなり始めたがるんですよ、皆さん。やってみないとわからないということで、最初から50万円入れて始めてしまう。そこから得るものも確かにあるんですけど、まずデモトレードをやって、そこで利益が出せるようになるまでは、自分のお金を使わない方がいいです。
もう一つ、急に人が変わってしまう方がいるんですよ。普段はセルフコントロールもできるし、人柄もいいし、会社ではいい仕事をするんだけど、FXになると急に抑制が効かなくなって危ないトレードをしてしまうという。
――FXの時だけ「バカ」になってしまう。
鹿子木:そういう方は結構多いですね(笑)。たとえば株の場合はいい情報がFXより多いですし、企業に対する投資なので、ある程度リテラシーを意識している人が多いのですが、FXはギャンブル的な発想で入ってくる人が多いんです。
くれぐれもセルフコントロールと「お金を稼ぐこと」が目的だというのを忘れないでいただきたいです。「稼げなくても楽しければいいや」という考えが入ってきやすい世界なので。実際、FXで利益を出すための準備ってひたすら地道で、まったく楽しくないですよ。毎日同じ時間にチャートをチェックして、判断して、欲を出さないようにコントロールしてっていう繰り返しです。
――セルフコントロールについて心がけていることはありますか?
鹿子木:人は弱いものだということを忘れないこと。それと自分を信じないことです。いつ何が起きるかわからないのが人間です。今は理性で欲をうまくコントロールできていても、目の前に一億円積まれたらどうなるかわからないでしょう?
だから、欲を刺激しないような仕組みを作るのが大事だと思っています。レバレッジを低くしてトレードするのはその仕組みの一つですし、チャートを見るのは1日1回30分にするとか、スマホではチャートを見ないというのもそうです。
――最後になりますが、これからF Xを始める人、すでに始めているもののうまくいっていない人にメッセージをお願いいたします。
鹿子木:これから始める方に対しては、1年間学ぶ時間を持って、準備をすること。そして、遊びや趣味やギャンブルではなく、お金を増やすための「仕事」を一つ増やすつもりでFXに取り組んでいただきたいです。
すでに始めているけどうまくいっていない方の場合、うまくいっていないのは技術や知識が足りないというよりも、「スイッチ」がどこかズレているからだと思います。そのスイッチを見直すことができれば、状況は好転するはずなので、がむしゃらにトレードしたり、色々な手法を試すのではなく、自分のどこに問題があるのかをシンプルに考えていただきたいです。
世の中の真理はシンプルなものです。あれもこれもとあちこちに手を出せばいいわけではなくて、引き算で余計なものをそぎ落としていくことの方が必要で、最後に残ったものを大事にしてほしい。これは投資の世界でも同じだと思います。そのために今回の本が役立てばいいなと思っています。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。