撮影現場で延々とダメ出しを繰り返し、いつまでもOKを出さない「大監督」や「名演出家」……。5月に放送予定だったWOWOWの連載ドラマ『東京すみっこごはん』の撮影で、“天才子役”と呼ばれる6歳の稲垣来泉を17時間もスタジオに缶詰にし、撮り直しを強行した監督が批判を浴びたことは記憶に新しい。結局、WOWOWは騒動を受けて放送中止を決定した。
しかし、エンターテインメントの世界では、このような「こだわり派」の監督が逆に評価を高めてしまう風潮があるのも事実だ。
一方、ビジネスの世界ではどうだろうか。仕事現場でも、完成度にこだわりすぎる上司のせいでいつまでも納品できなかったり、部下に無理を強いてでもクオリティを追求したりするなど、「過剰品質」を要求する上司の事例を見かけることがある。
こうした「大監督」のような上司を持ったために、「ストレスからうつ病になる人は多い」と警鐘を鳴らすのは、「カウンセリングサービス」所属の心理カウンセラーの大塚統子氏だ。
3大迷惑上司「完璧主義」「こだわり」「サービス過多」
過剰品質に陥る上司には、大きく分けて「完璧主義」「こだわり」「サービス過多」の3つのタイプがいるという。
「完璧主義」とは、「ゼロか100か」「白か黒か」でしか物事を考えられない状態のことを指す。会社にこのタイプの上司がいると、仕事や成果物に対する要求度が果てしなく釣り上がり、その分部下が疲弊しがちだ。
「完璧主義タイプの上司は、仕事を丸投げしてできたものだけを採点する傾向があるので、そこに至る労力やコストを考えないことが多い。当然、部下には大きなストレスがかかります。また、完璧に仕事をこなしたいがために、部下や同僚に仕事を任せず、1人で抱え込んでしまうケースも頻発します」(大塚氏)
次に「こだわり」とは、ひとつのことにのめり込み、まわりが見えなくなってしまう状態だ。最近は「クオリティを追い求めていく」というポジティブな意味でも使われることが多いが、行き過ぎれば問題行動となる。
「こだわりが強い人は、自分が興味のあるポイント以外に気が回らなくなり、スケジュール管理や部下に対する配慮が欠けてしまいがちです。また、その『こだわり』も全体から見れば影響が小さなものであり、他人には理解しづらいものであることが多いのも、このタイプの特徴です」(同)
3つ目の「サービス過多」は、部下に限界以上の労働を求めてしまう、非常に困りものの状態だ。会社や取引先のためなら、部下やその家族を犠牲にしてもかまわないと考える上司が、これに該当する。部下の労働負担よりも、取引先の評価や納期を優先してしまうのである。
「サービス過多に陥ると、目に見えにくい労働や負担をコストに換算できなくなります。部下に残業や休日出勤を強いても、当たり前と思ってしまうのです。また、社内の清掃や来客へのお茶出しなど、あくまで自主的に行っている仕事を義務化して労働や負担を増やしていく、というパターンもあります」(同)
「過剰品質」上司への対処法とNG行為とは
そうした上司たちは、なぜ過剰品質に陥ってしまうのか。大塚氏は、その理由は彼らが抱える「恐れ」にあるという。
「完璧主義の上司は、『完璧でなければ認められない』という恐怖にも似た気持ちがあり、そのため自らハードルを上げてしまいます。こだわりが強すぎる上司は、自分の評価が下がることを恐れています。何かの仕事で認められた人が『その評価をキープしなければいけない』とプレッシャーを感じ、際限のないこだわりに向かってしまうのです」(同)
そして、サービス過多の上司が抱えているのは、日本人に特徴的な「同調意識」だという。「他社や他人がこれだけやっているのだから、こちらもやらなくてはいけない」という恐れだ。大塚氏は「ブラック企業に横行するサービス残業は、まさにこの考え方です」と語る。
では、過剰品質に陥った上司にはどのように対処すればいいのか。大塚氏によれば、こういうタイプとは「正しさ」を争っても効果がないという。
完璧であろうとしてがんばっている上司に「あなたは間違っている」と言ったところで、火に油を注ぐ結果になるだけだ。重要なのは、上司が抱える恐れを軽減すること。たとえば、第三者の意見をうまく使って説明するのも、ひとつの方法だという。
「具体的に、『A社はこのクオリティ、価格、期日で納品しているので、現状のままでも弊社の評価が落ちることはないと思います』などと数字の根拠を示せば、上司の『恐れ』を軽減することにつながるでしょう」(同)
相手が抱える恐れを理解し、適正な品質イメージを共有できれば、過剰品質を要求するやっかいな上司も「仕事熱心でデキる人」に見えてくるかもしれない。
単純で基本的なことだが、気難しい「大監督」の上司を「名監督」に変えるには、仕事現場でコミュニケーションを密に取っていくしかないようだ。
(文=岡田光雄/清談社)