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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

リモートワーク前提時代、従来の人事評価は通用せず…“役立たず”化するマネージャー層

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
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カイトCEOの藤川勝廣氏

新型コロナウイルス流行でリモートワークに対応できない企業は軒並み淘汰される」――。業務コンサルティングを手掛けるカイト合同会社の藤川勝廣CEOはこう話す。

 年明け間もない7日にも新型コロナウイルス感染症対策で緊急事態宣言が発令される見通しとなり、リモートワークが新たな働き方として日本社会に定着することは既定路線となっている。一方で、日本では対面や会議、紙ベースの取引を重んじてきただけに、50代以上のベテラン社員を中心に、新型コロナウイルスの感染拡大から1年近く経っても戸惑いが消えないのも事実だ。今後ビジネスパーソンに必要なスキルや考え方について、2014年の創業以来、リモートワーク導入も含めて100社以上のコンサルティングの実績のある藤川氏に聞いた。

本当は必要なかった通勤定期

「もはや日本人は元の働き方に戻れません。かなりの人がリモートワークを経験したので、これまで導入に難色を示していた企業の経営幹部も『やったことがないから取り入れない』という言い分は通用しなくなった」

 これまで日本社会では通勤や対面会議などで物理的に「会社に姿を見せる」ことが「仕事」だとみなされてきたが、リモートワークでこの常識が強制的に崩された。企業側は製造業など現場作業が不可欠な業種以外では、人事・総務・経理などバックオフィス系の業務は在宅勤務を導入する流れが強まっている。これに伴い、通勤やオフィス賃料などのコスト削減が進むとみられる。

 実は、日本企業では当然支給されるものと考えられている通勤定期代も、企業側にとっては回数券にしたほうが支出を削減できるケースがほとんどだ。通勤手当は定期区間を21復以上しないと割引効果が出ない仕組みで、日本企業の営業日が21日程度であることを考えれば、休日出勤を重ねない限り回数券のほうが得することはあまり知られていない。

 通勤定期券がひと月当たり1万~1.5万円程度であるとすれば、1000人従業員がいる会社ならリモート化で月に1000万円程度もコスト削減できることになる。

 オフィスも一等地に構える必要もなくなる。IT大手のGMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長はコロナの危険性が広まり始めた昨年2月の時点で「そもそもオフィスは必要か真剣に考えている」とツイートし注目を集めた。もちろん業種によって事情は違うだろうが、賃貸コストを年間億単位で節約できる企業も多い。企業側にとってオフィス規模縮小の流れは進むとみられ、特に上場企業の場合、株主がリモートワーク導入をコスト削減要求案として要求してくるケースも出てくるだろう。

 従業員サイドとしても、通勤のストレスがなくなるなど嬉しいサプライズとなったと感じる人も多い。

「従業員の側も通勤のストレスがなく、趣味の時間が増えたりして快適だという経験をしてしまった以上、今後、リモートワークを働き方として選べる企業かどうかが転職の大きな基準になるでしょう。有能な人材ほど、意味もない通勤などにコストをかけずに本質的なことに投資しているか見極めるのは当然です」

言語化能力がカギ

 さて、リモートワーク時代に生き残るために、ビジネスパーソンにどのように能力が求められるのか?

コロナ禍前の日本企業では上司部下や同期といった社内での人間関係に依拠したコミュニケーションや、共通の職場が前提となっていました。『コレやって』とか『アレどうなった?』とかが代表例です。しかし、リモートワークでモニター越しに仕事をするようになると、その前提が崩れる。結果として『何が言いたいか言葉でしっかりと表現できる力』が求められるようになったというわけです」

 当たり前だが、在宅勤務では馴染んだ職場とは違い、それぞれが自宅からモニター越しで会議をするようになれば、5W1Hをしっかり伝えなくてはならなくなる。日本人はよく外国人から「何を言いたいのかわからない」という批判を受けてきたが、日本国内で働く上でも同様の批判を受けることになったというわけだ。

「私がコンサルティングした経験からいうと、マネージャー以上のレベルの人で口頭での指示だけでなく、文章できっちりと伝える能力が低い人が想像以上に多い。リモートワークで必須のメール作成にも時間がかかっているのが現状です。ましてやITツールを利用した指示連絡はなおさら。これまで多くの人が情報整理を特定の部下や同僚に頼ってサボってきたのがバレてきたということでしょう。客観的に見て、リモートワークにスムーズに移行できたマネージャーは、全体の2割もいないのではないでしょうか」

 海外で日本より先にリモートワークが普及した理由として、日本企業は個々人が担当する業務内容が曖昧な一方、他の国では職責が決まっていることが多いことが大きな理由だといわれる。会社内での役割分担が決まらない背景には、企業全体として取り組むべき目標設定が曖昧で「どのような組織にすればそれを達成できるか」という意識が経営幹部などマネジメント層に低かったこともあるだろう。「会社の存続」が至上命題で、上司や先輩に恥をかかさないよう前例を踏襲して、目の前の仕事をこなしていれば「仕事をしているように見える」面があったのは否めない。

「リモートワークの導入で『本当に必要な仕事は何か』という見方が強まり、明確なアウトプットが求められる風潮が強まり、ゴマカシが効かなくなった。新しいことが苦手な人、臨機応変に対応できない人も可視化されたと思います」

時間単位の管理はイケてない

 リモートワークを導入した企業の中には、トイレに行く時間や食事に行く時間も厳密に管理するシステムを採用する向きもあるが、藤川氏によると愚の骨頂だという。

「こういう企業は表面的に在宅勤務を採用しただけで、リモートワーク時代は『座っている=働いている』という感覚が通用しなくなるということを、まったく理解していない。実際には1日、2日くらいボーっとしていても期日にはしっかりアウトプットを出せれば、まったく問題ないわけで、モニターに顔が映っている時間とかタイプしたデータ量とかで評価するというのは完全な間違いです。

 では、どういう人事評価がいいのかというと、個人個人にあった評価軸をつくるしかない。私の経験からいうと、まず一人一人がある一定期間働いてもらった中身を精査して、最高と思われるパフォーマンスのレベルをみるところから始めます。そこから明らかに落ちていれば、仕事をしていないということになるし、精神的な要因があるのならメンタルケアをすればいい。リモートワークを導入すると慣れない部分もあるでしょうが、できなかった部分をすぐにフィードバックして合わせて修正していけば大概の人はできるようになります。

 個人個人にあった評価軸をつくるのは手間がかかりますが、そもそも手持ちの戦力を把握して配置するのが経営陣の役割。これまで時間を評価軸としてきたのは、曖昧な指示でも現場の個々人の努力や負担に依存できたからですが、これはもう通用しない手法です。さらには、評価されないなら有能な人ほど離職傾向が強まるでしょう」

「使えないオッサン」は人事の問題でもある

 リモートワークの拡大で、にわかに話題となっているのが「使えないオッサン問題」だ。アウトプットによる評価が高まると、会社に来るだけで仕事をしているとみなされてきた50代以上のオッサンのパフォーマンスの低さが暴かれてしまったと各種メディアで話題になっている。確かにリモートワークという新しい働き方になじみのない世代にとっては脅威といえるだろう。ただ、藤川氏は「使えないと切り捨てるのは簡単だが、そんな理想的な人材ばかり獲得できれば苦労はしない」と異議を唱える。

「先ほど申し上げた通り、マネジメントの基本は手持ちの戦力の把握で、『使えない』と呼ばれるオッサンだって配置次第では『使える』人材に化ける可能性はあるわけです。日本企業の人材育成はジェネラリスト志向が強く、本人が本来向いていない仕事をやらされているケースも多い。そこが企業としての工夫のしどころというわけです。ある程度の期間で成果がでなければ、配置転換してなんとか可能性を一緒に探る姿勢がなければいけません。

 キレイゴトのように聞こえるかもしれませんが、リモートワーク時代ではSNSによる評判も無視できず、社員に寄り添う姿勢をまったく見せない企業は社会的評判を失う時代にもなったのも事実なのです」

安易なクビの切り方はリスク

 コロナ禍による業績悪化で、従業員を解雇する際の企業は後を絶たないが、解雇の仕方が話題になった例も少なくない。

 米配車大手のウーバーは昨年に全従業員の14%に当たる3500人の解雇を発表したが、在宅勤務している対象者にオンライン会議のZoom(ズーム)を通じて「今日が皆さんのウーバー勤務の最後の日となる」と突然伝え、ひんしゅくを買った。

 一方で、民泊サービスのエアビーアンドビーは、全従業員の25%に当たる約1900人の解雇を発表した際、CEOが経営状況についての詳細を提供するなど説明責任を果たし、追加給与なども支払うという手厚い対応をとったことで評価を上げた。

 確かに、企業側に余裕があるかないかの違いもあるため、一概にはいえないが、世の中が厳しい状況であるため、一層、企業としての本質が現れるともいえる。一度「本質的に悪い企業」だとみなされてしまえば、企業の社会的責任が問われるようになった今、企業価値自体の低下につながり、中長期的に見てマイナスになることは間違いない。

 リモートワークは確かに、日本社会にとって馴染みのない働き方ではある。ただ、コロナ前の世界には戻ることが事実上不可能な以上、対応しなければならない。藤川氏はこう話す。

「日本人は前例がないというのが苦手ですが、逆にほかがやっていないから優位に立てるというふうに発想転換できた企業や人は、強みを発揮できる世の中になったといえます。小さくリスクをとっていくことが大きなリスクを避けることにつながるということを、リモートワーク導入ということから実感し始めるいい機会にしてはいかがでしょうか」

 いつの時代も変化に対応できた集団が生き残ることは変わらない。リモートワーク拡大という日本社会での大きな契機にどう向かい合うかが試されている。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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