AIやクラウドなど、技術革新によってオフィスワークは大きく変わりつつある。
特に企業の人事の分野はこれらの技術を駆使したツールの登場で、これまでになかった業務効率化、高度化が可能になった。採用面接をAIが行う、人事業務をクラウド上で管理し、社員はどこからでもアクセスできる、RPAでルーティン作業を短時間化する、などである。
これらの技術革新の恩恵を受けるのは大企業だと考えられがちだが、実は中小企業の方が「HRテック(人事業務をIT化する技術・サービス)」のメリットを最大限に享受することができる、としているのが『これ1冊でわかる 中小企業のHRテック入門~わが社でもできる! 導入から運用まで~』(森中謙介、町田耕一著、あさ出版刊)だ。本書では、中小企業へのHRテック導入を実際に推進している著者が、その導入から運用までを実務レベルに噛み砕きつつ、体系的に解説している。
中小企業こそHRテックが生きる
中小企業の中には「人事」の業務が体系化されていなかったり、そもそも人事担当者がいなかったりすることもある。それでも、優秀な人材は欲しいし、従業員のモチベーションも把握していたい。HRテックは中小企業が持つこれらの課題を解決しうる。
では、HRテックとは一体どのようなもので、どのように課題を解決するのか。たとえば人材採用は、これまで人的にも資金的にもかなりコストがかさむものだった。採用ホームページを作り、応募者に会社に来てもらい、社員の誰かが忙しい合間を縫って面接をしたり、応募者と連絡を取ったり、採用活動の進行を管理する。大企業はともかく、中小企業でこれをやるのは骨が折れる。
ただ、状況は一変している。たとえば本書の中で紹介されている、中小企業の求人に特化したHRテックの中には、求人ページ作成、求人媒体との連携、求人の一括管理、採用管理などをすべてカバーできるものもある。当然Web面接機能も備えており、利用コストも安い。今後、同様のサービスは増えていき、使い勝手や機能も洗練されていく。採用に限らず、人事業務はますます便利になっていくのだが、そこで大事になるのが、数あるHRテックのサービスの中で「自社にマッチしたサービス」を見つけ出す能力だ。一度で決めるのではなく、いくつかのサービスを使ってみて試行錯誤しながら自社に合うものを探していく取り組みが、これからの中小企業では一般的になるだろう。
人事評価との相性は?HRテックの落とし穴
本書ではHRテックの使命を「アナログな人事をよりよく補完すること」だとしている。ツールやシステムの導入は手段であって目的ではないこと、またこれらによって人事業務は便利になるが、それによって人間の仕事がなくなるわけではないことを知っておくことが大切だ。
たとえば人事の中でも最重要な業務の一つに「人事評価」がある。HRテックの領域でも評価制度を扱うサービスは人気が高く、ある種の「流行」のようになっている。
ただ、「人事評価を完全クラウド化!効率的で社員の満足度も大幅アップ!」「基本無料でシステム導入でき、すぐに評価制度が始められる!」といった美辞麗句に乗って導入した結果、人事評価の基準が自社の実態に合っていなかったり、自動的に行われた人事評価について上司から納得感のある説明がなされなかったりといったトラブルも少なくないのが実態だという。
ただHRテックを導入するのではなく、自社の状況をよく把握し、調査した上で導入することが重要。テクノロジーが全てを解決してくれるわけではないのだ。
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本書ではHRテック導入のメリットや導入事例、そして導入にあたって必要な考え方など、単なるHRテックの導入ガイドではなく、「アナログな人事をよりよく補完すること」という目的のために企業側が知っておくべきことがまとめられている。
人的リソースが足りないことの多い中小企業において、HRテックは間違いなく救いだ。ただ、それを生かすも殺すもその会社次第。上手に活用するために、本書は役立ってくれるはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。