名刺には一般的に自分の名前のほか、所属している組織の連絡先、役職なども記してあります。そして、日本においては、初対面の人同士のコミュニケーションは、まず名刺交換から始まります。名刺とは、社会人にとって身分を証明する重要なツールなのです。
最近、学生でも名刺を所持している人が増えています。特に2008年のリーマンショック以降、その傾向が顕著になっているように思います。
今回は、企業向けに採用検査の提供や学生向けのキャリア教育を手掛ける、グローイング代表で経営コンサルタントの平井俊宏氏に、学生の名刺事情について聞いてみました。
「名刺は、連絡先の詳細情報が詰まっているビジネスツールで、自分の所属、肩書など、社会においての自分の立場を示すものです。積極的に社会活動を行っている学生が名刺を持つことは意味もあるのでしょうが、一般の学生が名刺をつくっても、就職活動などで使うメリットはありません」(平井氏)
●就活本に書かれている名刺のメリット
多くの就活本では、学生が名刺を所持することのメリット・デメリットについて書かれていますが、採用担当者に名刺を渡すことがプラスに働くことはあまりないでしょう。
就活本で書かれている、就活時における名刺のメリットは、概ね次の3つに集約されます。
(1)企業訪問時に、社員と名刺を交換できる
名刺を渡された採用担当者は、やむを得ず名刺交換に応じる場合もありますが、ほかの学生との公平性の観点から、名刺交換を断るケースもあります。また、OB・OG訪問で印象に残すためのツールとして機能する場合もあるでしょうが、選考状況を問い合わせてきたり、面接に進めなかった場合に理由を尋ねてきたりすることを懸念し、名刺交換に応じないケースもあります。
(2)履歴書やエントリーシートと一緒に送ることができる
一緒に送ること自体に問題はありませんが、プラスに働く要素はありません。
(3)就活に利用しているSNS等のURLを記載して、採用担当者にアピールできる
SNSの使い方によっては、マイナスアピールになることもあるでしょう。
●就活ではプラスに働くことはない
「学生の名刺に対して“必要はないけれど、背伸びをしてつくっている”という印象を持つ採用担当者は少なくないでしょう。特にサークル活動などの名刺は、そのような印象を抱かせやすいでしょう」(同)
確かに、学生の名刺に多いのが、イベントプロモーターやオーガナイザーといった横文字の肩書です。どんなに真面目な活動をしていたとしても、お遊びサークルにしか思ってもらえません。
ちなみに、筆者が今まで見てきた名刺の中で、悪い意味で印象に残っているのは「エグゼクティブ副社長」という役職が書かれた学生の名刺でした。
「これが本気でつけた肩書であれば、社会を知らない勉強不足な学生だと思われるでしょう。また、ふざけてつけた肩書の入った名刺を就活に使っているとすれば、礼儀を知らない学生だと評価を受けるでしょう」(同)
「就活に名刺は必要ないでしょうが、どうしても使いたいのであれば、大学によっては、就活用名刺作成を推奨しているところもあるので、学生課やキャリアセンターに問い合わせてみるべきでしょう」(同)
社会人が学生の名刺をもらったところでメリットもなければ、うれしくもありません。就活において名刺をつくることは自由ですが、それは必須アイテムではなく、プラスに働くこともないと理解した上で使用するべきでしょう。
(文=尾藤克之/経営コンサルタント)
●尾藤克之(びとう・かつゆき)
東京都出身。経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。人間の内面にフォーカスしたEQメソッド導入に定評。リスクマネジメント協会「正会員認定資格HCRM」、ツヴァイ「結婚EQ診断」監修等の実績。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『国会議員秘書の禁断の仕事術』(こう書房)など多数。