大分県勢54年ぶりの優勝なるか――。
2年ぶりに開催された令和初の春の甲子園、選抜高等学校野球大会(通称:センバツ)。3月31日に開催された準決勝第2試合で大分県の明豊高校が愛知県の中京大学附属中京高校を5対4で敗り、同校史上春夏通じて初の決勝戦進出を決めた。
大分県勢としては1972年夏の甲子園(全国高等学校野球選手権大会)以来49年ぶり、センバツでは67年以来、実に54年ぶりの決勝戦となる。過去に大分県勢が決勝戦に進出したのは、この2回のみ。いずれも津久見高校で、春は高知高校を2対1で、夏は柳井高校(山口)を3対1で下して優勝を飾っている。沖縄本島を除いた九州地方のなかでは唯一、春夏の甲子園優勝を経験している県でもあるのだ。
今大会の明豊は実に見事な快進撃をみせているが、大分県勢は津久見の優勝以降、過去3度、決勝戦進出を目前にして涙を飲んでいる。その惜しかった軌跡を振り返ってみたい。
まずは76年春だ。打力が自慢の日田林工高校が準々決勝までの3試合で23点を挙げる快進撃。だが、準決勝で超高校級の“ノンプロチーム”といわれた崇徳高校(広島)の前に1対3で惜敗してしまう。
94年夏には伏兵の柳ヶ浦高校が大活躍。実はこの年は、ベスト4に残った4校中3校が九州勢となった。前評判は決して高くなかったが、その“九州旋風”の一角を担ったのが柳ケ浦だった。初戦から小山高校(栃木)を7対1、近江高校(滋賀)を14対4、創価高校(西東京)を5対0と撃破。
準々決勝でも、この大会優勝候補の一角を占めていた仙台育英学園高校(宮城)に対し、6対5で競り勝ち、堂々のベスト4進出を果たした。準決勝では同じ九州勢の樟南(鹿児島)の前に2対10で大敗したが、下馬評を覆す大健闘ぶりであった。
3度目は、平成最後のセンバツとなった2019年春の明豊である。初戦でプロ注目の左腕・及川雅貴(現阪神タイガース)擁する優勝候補の一角・横浜高校(神奈川)と対戦することとなったが、強打が自慢の明豊は、この及川を見事に攻略。13対5で快勝すると、この前年秋の明治神宮大会王者の札幌大谷高校にも2対1で競り勝つ。準々決勝も古豪・龍谷大学付属平安高校(京都)相手に延長11回、1対0と劇的なサヨナラ勝ちを収め、ベスト4入りを決めたのである。
準決勝では千葉の名門・習志野相手に初回に3点を先制するも、終盤に追いつかれて結局、4対6と無念の逆転負けで同校にとって初の甲子園決勝進出はならなかった。今回の準決勝でも明豊は5点を先制しながら最後は1点差まで詰め寄られており、前回の轍を踏むのではないかと、気を揉んだ方もいたのではないだろうか。
優勝候補に挙げられながら準々決勝で敗退した2校
大分県勢の甲子園準決勝敗退はこの3回だが、準々決勝敗退も10回ある。そのなかには、戦力的に優勝してもおかしくなかったチームが2校あった。そのひとつが、制球力抜群でプロ注目の剛腕・川崎憲次郎(元ヤクルトスワローズ等)を擁した1988年夏の津久見である。
2回戦から登場した津久見は、北海道札幌開成高校(現札幌開成中等教育学校・南北海道)相手に4対1で快勝すると、続く大垣商業高校(岐阜)戦は相手のプロ注目左腕・篠田淳(元福岡ダイエーホークス)との緊迫した投手戦となった。結果は1対0というロースコアの展開で、のちのドラフト1位同士の投げ合いは、毎回の11個の三振を奪った川崎に軍配が上がった。
ところが、迎えた準々決勝では名門・広島商業高校の繰り出す“元祖・甲子園戦法”の前に川崎が翻弄され、5失点。打線も振るわず、0対5で完敗したのであった。
2チーム目は現在、福岡ソフトバンクホークス不動のショートとして君臨する今宮健太が3番を打ち、ショート兼リリーフ投手として活躍した2009年夏の明豊である。
初戦に興南高校(沖縄)を4対3で下すと、続く2回戦も西条高校(愛媛)に4対0と余裕の勝利。3回戦の相手は最速146キロを誇るプロ注目の本格派右腕・庄司隼人(元広島東洋カープ)擁する常葉大学附属橘高校(静岡)という強敵だったが、今宮が投げて打っての獅子奮迅の活躍を見せる。
今宮はショートで先発出場していたが、2対4とリードされた3回途中からリリーフ登板。以後、10回までの7回3分の2を投げて被安打5、奪三振7、失点2、自責点2。打っては庄司から3安打3四球で全打席出塁。なかでも5対6と1点ビハインドの9回表無死三塁の場面では、ライト前へ値千金の同点タイムリーを放った。結局、延長12回に2点を勝ち越した明豊が勝利し、ベスト8進出を果たしたのである。
準々決勝の相手は同年春のセンバツ2回戦で戦い、0対4で敗れた花巻東高校(岩手)であった。この試合で先発マウンドに上がった今宮は、4回途中までに4失点を喫し、サードへ回る。試合は相手エースの菊池雄星(現シアトル・マリナーズ)が試合途中に背中の痛みを訴え緊急降板したことで明豊打線が反撃に転じ、8回裏を終わって6対4と逆転に成功。
それでも粘る花巻東に9回表に同点に追いつかれ、延長10回表には決勝点を許してしまう。今宮は9回に追いつかれた直後の1死三塁で再びマウンドに上り、この場面では2者連続三振でピンチを断ったが延長10回、ついに力尽きた。このチームなら優勝できると大分県民が大きな期待を抱いていただけに、実に惜しい敗戦であった。
決勝の相手は神奈川・東海大相模
さて、4月1日12時30分、いよいよ決勝戦である。
冒頭に記したように大分県は過去、2戦2勝している。実は春夏合わせて4回以上、決勝戦に進出して“決勝戦無敗”の都道府県は、奈良県だけである。1986年夏、90年夏、97年春の天理高校と、2016年春の智辯学園高校だ。もし明豊が勝てば、大分は3戦3勝となり、奈良県に続く記録となる。
その決戦の相手は、関東の雄・東海大学付属相模高校(神奈川)である。こちらも2011年以来、3度目のセンバツ優勝を狙っている。
ちなみに神奈川県は、都道府県別の春の優勝回数が兵庫県と並んで6回と3位タイ。さらに春夏通算の優勝回数でも兵庫県と並ぶ13回で、大阪府の25回、愛知県の19回に続く3位タイなのである。つまり、勝てば春の優勝回数、春夏通算優勝回数のどちらも単独3位になるワケで、こちらも負けられないだろう。
ともに“絶対に負けられない戦い”となる最終決戦。明豊は自慢の強力打線が、今大会26イニング連続無失点を続ける相手の左腕エース・石田隼都を、どう攻略するかが勝負のカギとなろう。果たして明豊は、南こうせつ作曲の校歌を轟かせることができるか。