出社は週1回、業務はほぼ全部iPadで?最新のベンチャー事情
「Google Apps」
現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。そんな“ヴィジョナリスト”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。
最近新たに会社を一つ起こし、自著『ネットベンチャーで生きていく君へ』(日本実業出版社)を地でいく日々を再び送っている。インキュベーション型の共有オフィスに席を置き、若いベンチャー起業家たちと同じ空気の中で、新たな革命を世の中に起こしていくための準備を進めている。
オフィスには最低限の人数分だけのデスクを借りているが、エンジニアたちは自宅で昼夜問わず作業を行い、週に一度だけ集まって仕様や新たな工夫について徹底討議し、また戻ってコーディングに励む毎日だ。
サーバーは買ってない。すべてクラウドサービスでまかなう。全員がMacとiPad、iPhoneで作業&コミュニケーションをとり、Microsoft Officeも使っていない。AppleのビジネスオフィススイートであるiWorkとGoogle Appsを適宜使い分けているが、メールもカレンダーもGoogle頼りだ。紙を印刷するということも滅多にないし、外部からの資料をコピーするかわりに、iPhoneなりiPadで写真を撮ることで代用している。非常にシンプルな作業形態であり、持たざる経営の極致だと思う。
●仕様書のないシステム開発
サービス設計についても仕様書は書かない。要件定義書は僕の頭の中にあるし、グランドプランはぶれることがないものの、適宜修正が加えられると、その差分だけをメールや口頭でエンジニアに伝える。すると彼らがwikiを使って簡潔に整理し、優先順位をつけ始める。最初のサービスのローンチを9月3日に行ったが、それ以降コンスタントに月に2回の新規機能リリースを続けている。現状では非常に効率よいコ・ワークスタイルの維持ができていると言っていいだろう。
スタートアップの定義については、何度も触れているように、とにかく急成長をDNAに刻み込まれた新興企業のことであり、結果として遅かれ早かれ第三者からの資金注入が必要だ。投資家からの出資を受けたとたんに、金額の多寡にかかわらず、その資金を増やして返してあげなければならないという義務を負うのだ。そのために必要なのがいわゆる出口戦略であり、IPOかM&Aによって、投資に対するリターンを行う。
つまり、スタートアップとは、急成長するために資金を集め、その投資家に報いるために出口戦略を設定する、そういうプロトコルに則して生まれて大きくなっていく会社のことなのだ。
●徹底したクラウド化=物理的制約から解放
僕の会社に限らず、多くの起業家もこのプロトコルに従って会社をつくり、育て、出口を目指しているわけだが、僕のケースでいえば、今回は今までにないほど徹底してクラウド化というか、物理的制約に縛られないことを目指している。どこにいても仕事になるし、たいていの仕事はiPhone一つで行えるようになっている。
最近の学生は卒論を携帯電話で書くというが、それに近い手軽な業務スタイルを目指している。もちろん、エンジニアがコードを書くのにそれでは不足だろうし、財務書類やプレゼン資料を作成するにはスマホでは足りないが、それでもタブレット(=iPad)でなるべくまかなえるようにしている。相変わらず名刺にだけはお金をかけているが、それ以外には特別なものはいらない、というのが今の僕の環境なのだ。
ところで、現在僕たちがリリースしているコミュニティサービスには(ユーザー数は公表しないが)結構な数の利用者が集まってきていて、120カ国・地域からのアクセスがあり、全体の30%が海外からだ。さらに、(タブレットを含む)モバイル利用者が全体の60%になる。来年早々には、詳細のアクセスデータを公開するつもりだが、だいぶ面白いことになっているので、期待していただきたい。
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