日本のコンテンツは韓国に負けている?タイのGDPは神奈川県?アジアのリアル
ゴールドマン・サックス、ベイン&カンパニーなどの複数の外資系金融機関やコンサルティング会社を経て、ライブドア時代にはあのニッポン放送買収を担当し、ライブドア証券副社長に就任。現在は、経営共創基盤(IGPI)でパートナー/マネージングディレクターとして企業の事業開発、危機管理、M&Aアドバイザリーに従事するのが、塩野誠氏である。そんな塩野氏が、ビジネスのインフォメーション(情報)をインサイト(洞察)に変えるプロの視点を提供する。
「東南アジアの成長に乗り遅れるな」と喧伝されて久しいですが、安価な人件費に魅力を感じメーカーが生産拠点を設立していた時代から、消費市場としてのモノやサービスの売り先へと変化してきました。
東南アジア各国で消費意欲が旺盛になってきており、なおかつ実際に購入できるような中間層が成長してきているのは事実です。もともとそうした国の富裕層は、一般的な日本人よりはるかに裕福であることが珍しくありませんでした。
私もジャカルタやバンコクで、富裕層のご子息たちが何気なく、「あのビルとあのビルはウチの(ファミリーのもの)」というのを聞いたことがあります。彼らはどう考えてもすでに働く必要がないような人たちですが、主に欧米で、時に日本で高度な教育を受け、一族のビジネスを大きくするため、一族の中で認められるために世界を飛び回っています。そんな想像を絶するような富裕層ではなく、普通の中間層が裕福になってきているため、日本企業を含め諸外国の企業はターゲットを定めているわけです。
国が豊かになってくると衣食住から娯楽に関心が移っていくわけですが、こうしたファッションやエンターテインメントの分野で調査をしていると、戦後の日本は本当に国全体として豊かになったものだと感じます。それ自体が都市国家であるシンガポールを別にして、タイでもベトナムでも、都市部とその他の地域の貧富の差やインフラ整備の差は大きく、やはり東南アジアの消費市場は「都市単位」で考えなければならないと思います。
また、そうした国々は複数民族の共存する国家も多く、ファッションやエンターテインメント、そして食文化といった部分は宗教・民族でまた細分化されます。そのため「顧客の定義」を日本のように「首都圏在住独身F1層」のようには言えず、そのビジネスの特性に合った軸の必要性を感じます。日本ではなかなか「ハラルフード(イスラム教で許された食べ物)」について意識することはありません。
GDP成長率や人口動態における若年層の占める割合を見て、「やっぱアジアでしょ」と気軽に参入してよいほど簡単な市場ではないと、私は思っています。仕事柄、色んな指標や現地の人へのインタビューから事業開発について考えますが、ふと「タイのGDPって神奈川県くらいか」とか、「ベトナムは新潟県くらいか」と日本のデカさを思い知ります。GDP成長過程のイメージをつかむために、「この国は日本の1972年くらいの段階か」とも考えますが、これまた日本のデカさを知ります。(GDPは、根拠としたデータがUSドルベースのため、日本円換算すると為替の影響が大きいので概算です)
●固定電話時代を飛ばしてスマホへ?
もちろん単純比較はできず、日本のたどった成長過程とはまったく違った面を見ることもあります。例えば、固定電話時代を大幅にすっ飛ばして、携帯電話そしてスマートフォン(スマホ)利用になるといった状況です。バンコクの屋台が並ぶ小道を入っていくと、スマホとタブレット向けアプリを日本向けに開発している若いエンジニアが、古めかしいアパートで作業中だったりします。
道路やインターネットといったインフラに関しても、連続的に整備されていくとは限らず、民主化傾向にある国のほうが、国内のバランスオブパワーが拮抗してインフラ整備が急激には進まないことがあります。独裁的国家によって資本主義が推し進められているような国のほうが、「道路通すので、その村どいてください」と開発できることがあるからです。
私は東南アジア各国を消費市場として見た場合、その成長率に賭けるために、「そこにいる」ことは重要だと思いますが、「初年度から利益出してね」といった事業計画は厳しいと思っています。我々は日本という国の成長を経験しているので、その成長過程に関する予測にはある程度は長けていると思いますが、「どこが同じでどこが異なるのか」は意識すべきでしょう。
マレーシアのクアラルンプールではハイブランドの店舗には人もまばらですが、日本から進出した100円ショップは人気でした。すでに都市在住の豊かな消費者が、トレンドものはユニクロやH&Mのようなファストファッションで、質の高い日用品は100円ショップでと使い分け始めているとしたら、それは「日本化」とも見えます。