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株価回復はアベノミクスと無関係? 輸出増えず、生活品値上がりの懸念も

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株価上昇について報じる
3月9日付朝日新聞より
「こんなに株価が上がると、アベノミクスに疑問符を投げかける切り口は出しにくい」

 テレビ局の番組制作者がぼやいている。疑問点も多いアベノミクスだが、批判的に解説をすると「せっかく株価が上がっているのに、変なこと言うな」「やっと円安になったのに、文句あるのか」との抗議が、視聴者から来るという。

 安倍晋三首相は国会答弁で「私が自民党総裁になっただけで、円安になり、株価が上がった。民主党では、そうならなかったじゃないですか。政治は結果ですよ。結果が出ているじゃないですか」と、自信にあふれた発言をする。

「結果が出ているのだから批判するな」と言わんばかりで、テレビ局に抗議する視聴者と重なるようにも見える。

 安倍首相の登場で「円安・株高」のフタが開いたのは確かだ。大胆な金融緩和への期待は「きっかけ」にはなった。だが、為替相場が動きだした大きな要因は、日本の貿易構造の変化だろう。

 2012年は6兆9273億円という史上最大の貿易赤字になった。これまで最高は第二次石油ショック後の1980年、2兆6128億円の赤字だった。比較にならないほど赤字が膨らんでいる。

 国際収支は大きな波動を描く。周期は数十年単位で変動する。日本の貿易収支は、81年に黒字に転じた。輸出に力を入れたからだ。象徴的な動きが米国市場で起きた。日本車の大攻勢で、貿易摩擦が火を噴いた。日本の小型車は燃費が良く、ガソリン価格が高騰した市場で優位に立った。日本は貿易黒字が定着し、ドイツを抜き、最大の貿易黒字国になる。モノづくりに強みのある貿易立国となったのが80年代だ。

 それから30年たった2011年、再び貿易赤字に転落し、昨年、赤字幅は前年の2.7倍に拡大した。約7兆円の貿易赤字は、輸入額70兆円の1割に当たる。

●貿易赤字より注目すべき指標

 経済構造を考える時、貿易赤字より注目すべき指標がある。経常収支だ。

 モノの輸出入が貿易収支で、これにサービス(航空・運輸・観光など)収支や、海外からの配当など投資収支を加えた、国境を越えるカネのやり取りの収支である。国際収支とも呼ばれる。

 日本の貿易構造は、輸出から現地生産へ比重が移っている。先進国とは貿易摩擦に悩まされ、途上国では人件費など生産コストの安さを追って現地化が進んだ。そこで生まれた利益が、配当などで日本の本社に入り、投資収益を膨らます。

 昨年は貿易収支が赤字になったが、投資収支の黒字が大きく、経常収支は黒字を保った。ところが今年1月の経常収支は3648億円の赤字。昨年11月から3カ月連続で赤字を記録している。

 経常収支が赤字になると、円でドルなど外国通貨を買って、モノやサービスの対価を支払うことが必要になる。「円売りドル買い=円安」になりやすい。

 経常収支が黒字なら「円買いドル売り=円高」だ。

 経常収支が赤字に転換した昨年11月は、野田首相が解散を明らかにし、安倍さんが首相になる方向が見えた時。日本の国際収支構造が円安に動く時に、アベノミクスがぶち上げられたのである。「政治は結果だ」というが、いいタイミングに重なったのである。

●輸出は増えず、家計に打撃の懸念も

 円安で輸出企業は喜んでいる。海外からの投資収益を円に替える際、額が大きくなる。輸出品の現地価格が下がり、電機や自動車などの競争力がつく。それは結構なことだが、ガソリンや食糧・飼料などが高騰している。赤字国であるから円は安くなるのは自然で、貿易黒字が定着していた頃の為替水準は大幅に修正されるだろう。だが、円安がありがたいことかのように、無批判に喜べる話ではない。