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吉田潮「だからテレビはやめられない」(3月22日)

フジドラマ『最高の離婚』の勝因とは?最終回“秀逸”キスシーンに学ぶ、離婚という喜劇

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『最高の離婚』公式サイト(フジテレビ HP)より
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

 ここ数年のテレビドラマで、最高のキスシーンだった。

 今クール(1〜3月)に放送されていた連続ドラマの中で、いやここ1年で、最も秀逸な出来栄えだった『最高の離婚』(フジテレビ系)である。観ていなかった人のために、さらっと中身をおさらいしておこう。

 瑛太(濱崎光生役)と尾野真千子(濱崎結夏役)夫婦は、性格や価値観の違いから離婚に至った。が、離婚はしたものの、お互いになんやかんやと干渉したり喧嘩したりで、距離を置くことができずにいた。近所に住む瑛太の元カノ・真木よう子(上原灯里役)と浮気癖のある綾野剛(上原諒役)のカップルがひと波乱もふた波乱も起こし、その痴話喧嘩に瑛太も尾野も巻き込まれていく。このふたりが自分と向き合い、相手と向き合い、「とどのつまり、夫婦っていったいなんだろう?」と考え直していく、そんなストーリーだ。

 昨日(3月21日)放送の最終回では、静岡の尾野の実家へ瑛太が両親とともに離婚報告に行く。が、尾野の実家では飲めや歌えやの大宴会状態。しまいには瑛太の両親、尾野の両親ともに大喧嘩を始めている。その姿を見ていた瑛太と尾野。お互いの心の中には、離婚したことへの後悔と、元に戻れないもどかしさが芽生える。

 終電で東京へ帰る瑛太をホームで見送る尾野。発車ベルが鳴ったとき、瑛太は尾野の手を強く引き、電車に乗せてしまう。その後である。問題の、というか、秀逸なキスシーンは。誰もいない電車内で、突然瑛太が「アッ!」と叫ぶ。尾野が驚いた隙に、瑛太はなんとも不器用でそっけないキスをしたのだ。不意打ちである。

 恥をしのんで告白する。このシーンを観ていて、肋骨のあたりが「キュン」となった。四十の中年女が「キュン」なんて反吐が出そうだが、事実、音が鳴った。ロマンチックでも欲情的でもない。音をつけるなら「ぶちゅ」。しかも瞬殺。それなのに、この愛しさは何? 

 結婚なんてそんなもの。夫婦なんてそんなもの。いちいちムカついて感情をぶつけあったり、人格否定に近い罵詈雑言を浴びせあったり、相手よりも飼い猫や盆栽の安否が気になったり。それでも何かがつながっていて、失ったときその大切さを初めて知る。

 結婚や離婚のリアルな間抜けさをきっちり描いたことで、このドラマは完成度の高い作品となった。登場人物が滔々と語る長いセリフに、嘘臭さや説教臭はまったくない。ハイレベルなのに虚栄心がまったくない脚本に、対応できる役者を揃えたことが勝因だと思う。ここに微妙なアイドルだの、芝居の下手な暑苦しい役者が入ったら台無しだもの。

 慰謝料払って離婚した経験のある私としては、膝を打つことも多かった。離婚って、実はコメディ、喜劇そのものだから。もちろん、子供がいたら悲劇になる確率は上がるのだろうけれど。むしろ世間が悲劇に仕立て上げたがっているような気もする。

 男と女が向き合おうとするのは滑稽なこと。だって一生わかり合えるはずがないのだから。わかり合えるなんて考えるほうが傲慢だし、ハッキリ言って幻想である。この幻想にもがく男女の姿は、なぜか過剰に盛られて悲観的に描かれることも多いのだが、『最高の離婚』は喜劇として確立させた。既婚者はぜひ観てほしい。絶対膝を打つから。

 これだけレベルの高いドラマを観ると、4月期のドラマが不安だ。各局ラインナップを観る限り、超えるであろうと思われる作品は、今のところひとつもない……。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。