ソニー・パナのモノづくりDNAはこんな所で生きている! 「追い出し部屋」よりもすごい実情とは
ソニー・パナソニックなど、大手メーカーの業績不振が叫ばれる中、「追い出し部屋」報道へ注目が集まりました。リストラ策の一環である「追い出し部屋」は、賛否両論が巻き起こり、日本の解雇規制へも焦点が当たっています。ただ、こういった「大手メーカーは元気を取り戻せるか?」という議論・記事と接する度に感じることがあります。それは、「大手メーカーを飛び出して、モノづくりへ情熱を注ぐ人々がいる」ことが、もっと伝わって欲しいという点です。
例えば、2010年7月にプロジェクトをスタートさせたWHILLは、歩道走行が可能な次世代パーソナルモビリティを開発しています。健常者はもちろん、軽度の障害者や高齢者も、楽しくカッコ良く乗れる車椅子です。同社の杉江理CEOは1982年生まれの日産出身、プロジェクトメンバーは同世代のソニー・オリンパス出身者らです。WHILLは2011年の東京モーターショーを皮切りに、Tech crunch TOKYO 2012 Startup Battle優勝、SF JP night 準優勝と着実に実績を積み重ねています。
07年4月に設立された Cerevoは、小型映像配信機器LiveShellなどを開発しています。LiveShellはビデオカメラとケーブルを繋ぐことで、PCを経由せずにUstreamへ高画質配信できます。同社の岩佐琢磨CEOはパナソニック出身、VIERA・DIGA・LUMIXなどの主要ブランドで、ネット連携家電の商品企画を担当した経験を持ちます。Cerevoは最近、乱雑な電源タップ周辺を整理するスマート電源タップ「OTTO」を発表、米国ラスベガスで開催された世界最大級の家電展示会・International CES 2013で試作機を公開し、注目を集めています。
モノづくり革命が叫ばれる昨今、「大企業か?ベンチャーか?」という二者択一論や「なぜ日本からAppleが出てこないのか?」という議論が起こりがちです。また、ハード系スタートアップを「昔のソニーを目指す」という“キャッチーなキーワード”で括ってしまいます。しかし、モノづくりに対する思いはヒトそれぞれです。だからこそ、大手マスコミには“応援する”というシンプルな姿勢へ、もう少し傾いてほしいと感じます。実際、私たちは魅力的なモノづくりのエピソードに勇気づけられ、共感したモノが描く未来にはワクワクさせられます。
13年4月16日、新経済連盟サミット2013が開催されました。同イベントへは、Google のアンディ・ルービン上級副社長、 Twitterのジャック・ドーシー共同創業者、 Skypeの二クラス・ゼンストローム、Pinterestのベン・シルバーマン共同創業者らが登壇。
日本を代表する経営者だけでなく、世界のアントレプレナーが参加しました。一般社団法人新経済連盟の代表理事である、楽天の三木谷浩史会長兼社長は同イベントのまとめとして、「ベンチャーを制度面で支援するだけでなく、国や社会がベンチャーを“応援する”ような文化的背景が必要」と発言しています。
また、同連盟の監査役であるフリービットの石田宏樹社長は、ソニーについて、ある印象的なエピソードを持っています。石田氏は高校入学前、ソニー創業者・盛田昭夫氏の著書「Made in Japan」に刺激を受け、「ソニーで働き、ソニーを動かす人物となりたい」と考えました。ある日、高校時代の石田氏が家電販売店へ行った際、「ソニーの新製品はすぐに出ますか?」という問いかけに対し、店員は首を横に振りました。ところが、その2週間後に新製品が発売されたのです。
この対応に疑問を感じた石田氏は、「ソニーを動かす人物になりたいと考えていたのに……」という思いを添えて盛田氏へ手紙を送りました。すると、ソニーの社員が盛田氏のメッセージを携えて、石田氏の自宅を訪れたのです。そこには「君はソニーへ来るな。AV機器ではなく通信の世界に身を投じ、自ら会社を興せ」というメッセージが綴られていました。
モノづくりDNAは脈々と受け継がれ、“今”を生きています。自ら会社を興す、大企業で働く、書き手として伝える……といった多くの選択肢がある中で、役割を問わず、“応援する”というシンプルな姿勢が求められています。