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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第29夜】

帰化しても消えない在日コリアン差別…韓国籍を選んだ女優・韓英恵

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ザ・ノンフィクション
毎週日曜日 14:00からフジテレビで放送。
(『ザ・ノンフィクション』より)

ーー『カンブリア宮殿』『ガイアの夜明け』(共にテレビ東京)『情熱大陸』(TBS)などの経済ドキュメンタリー番組を日夜ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で裏読みレビュー!

今回の番組:6月19日放送『ザ・ノンフィクション』(テーマ:ハナエゆれる ある家族のゆくえ)

 ハナエと同じく、僕も揺れていた頃を思い出しながら見ていた。家族と韓国籍から日本籍に帰化をした幼い頃のこと、「柳君」と呼ばれていたのが「松江君」に変わった時のこと、映画学校の卒業制作として『あんにょんキムチ』というドキュメンタリーを制作し、韓国の親戚から「どこに行っても、住んでも韓国人なんだ」と言われた時の違和感。

 先日、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)で放送された『ハナエゆれる』は、韓国人の父と日本人の母を持つ22歳の韓英恵を追ったドキュメンタリーだ。

 僕は彼女のことは『ピストルオペラ』『誰も知らない』『マイ・バック・ページ』といった映画で見ていた。繊細かつ大胆な、スクリーンに合うお芝居をする女優さんだな、と思っていた。もちろん名前から韓国の血を引くことは知っていたが、二重国籍で悩んでいるということは知らなかった。彼女の父は韓国と日本を行き来し、母とは友達のような関係で仲が良く、大学を休学しプラプラしている弟はトラブルメーカーとのことだが、僕には円満で幸福な家族と映った。しかし彼女は、あと半年の間に、韓国か日本かどちらかを決めなければいけない。その決断までを、ナレーションを担当する小泉今日子の視点を軸に、カメラが密着する。その優しい声が『あまちゃん』(NHK)のキャラクターを想起させて、日曜の昼なのに、平日の朝を思い出させてくれた。

 英恵は国籍の問題を家族で話し合う。母は「こっちで育っている以上は(韓国籍を)消滅させるしかないですね」と言い、父は「捨てることではないと思う、多分」と躊躇を隠さない。大学の同級生と酒を交わしながら相談もするが、悩みは深まるばかり。韓国に行って祖母と相談をするが、「本来なら父親の家系に入るべきだ」と強い言葉で言われる。その一方で「先の短い私が、これが正しい、あれは間違いと論じても何の意味もない。自分らしく人生を歩んでくれれば」と話し、英恵の気持ちも酌んでいる。

 ワールドカップの日韓戦を「テーハミング(大韓民国)!」と盛り上がる韓国サポーターに囲まれながら観戦するが、表情が晴れるはずもない。そこに重なる「日本にいても韓国にいても溶け込めない気がする」という英恵のインタビュー。その気持ち、僕にはよく分かる。

 僕の父は「帰化をすれば日本人になるのだから問題はない」と言ったが、そんなことはなかった。番組で英恵と家族が話すように、2002年のワールドカップと北朝鮮の拉致問題以後、在日コリアンに対する罵詈雑言は大きくなった。

 その前に盛り上がった韓流ブームの時は「文化は一気に国の距離を縮めてしまうんだな」と驚かされたが、その反動も大きかった。また、先日も韓国のタクシードライバーに「韓国語を勉強しなさい」とインチョン空港に向かう中で言われた。もう何度も経験していることなのでショックも受けない。在日コリアンとして生まれた限り、そこは問い続けられるのだ、と僕は覚悟を決めている。

 英恵は自分が住む町の役所へ言って「なぜ日本では二重国籍はダメなのか」と問う。しかし当然ながら「法律で二重国籍は認められませんよ」と返答される。納得ができないといった表情でその場を後にし、小泉今日子も「そんなことは分かってるんです、でも……」とフォローをする。

 ほかの国では認められていることなのに、なぜ日本ではダメなのか。そんなことは役所で聞いても意味がないのかもしれない。単なる悪あがきでしかないことも分かっている。それでも彼女は「日本人でもないし韓国人でもない」という自分のアイデンティティを知ってほしかったのだと思う。そして自身でも確認したかったのではないか。その気持ち、よく分かる。そして、どうにもならない、ということも。