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参院選の最中、前日弁連会長・宇都宮健児氏に聞く。(後編)

“不自由な”選挙〜一般人を立候補から排除する高額供託金、禁止事項だらけの選挙活動

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 ということは、もし10人が比例区で立候補すると、供託金は6000万円になります。実際、昨年暮れの総選挙に緑の党が候補者を立てられなかったのは、供託金を集められなかったという事情もあるのです。

 今の供託金の額では、財界などをバックにした政党や候補者、あるいは全国組織をもつ団体の支援を受けるような政党や候補者しか立候補できません。こうして新しい政治勢力や市民グループの政界進出を、最初から閉ざしているのです。

●供託金ゼロの国はたくさんある

 外国ではどうでしょうか。アメリカ、ドイツ、イタリア、フランスは供託金がゼロです。フランスでは1995年まで日本円で約2万円でしたが、この金額でさえ社会的批判を浴びてゼロにしました。

 その他のヨーロッパ諸国も10万円以下であり、日本では世界一高い供託金を払わなければ立候補すらできません。供託金制度の表向きの理由は、泡沫候補の乱立や売名行為のための立候補を防ぐこととされていますが、そこには隠れた政治的意図が見てとれます。

 高額な供託金制度は、1925(大正14)年に普通選挙法が制定されたときにできた制度です。日本で初めて選挙法が公布されたのは、大日本帝国憲法が公布された1889年(第一回衆院選実施は翌1890年)です。その当時の有権者は、25歳以上の男子で国税を15円以上納めた者45万人、全人口の1.1%にすぎません。被選挙権は30歳以上でした。

 その後、選挙権を拡大させるための運動もあり、1900年に納税額の条件は10円まで引き下げられました。この改革によって有権者は98万人(全人口の2.2%)に拡大されたのです。

 さらに1919年、原敬内閣が納税額を3円まで引き下げたことにより、有権者は307万人(全人口の5.5%)に拡大し、ついに1925年、25歳以上の男子全員に選挙権を与える普通選挙法が制定されました。ただし、このときは男子だけで女子に参政権が与えられたのは1945年です。

●貧乏人の政界進出を阻止するための供託金制度

 これまでお話ししたのは、選挙権つまり投票する権利のことで、さまざまな運動によって選挙権は拡大して、今は20歳以上のすべての国民が選挙権を得ました。しかし、もう一方の被選挙権(立候補する権利)はまったく不十分のままです。

 普通選挙法と同時に治安維持法が制定されたことは、学校でも習うので多くの人が知っているのですが、このときに供託金制度も導入されたことは意外に知られていません。

 当時の供託金は、公務員の1年目年俸の約2倍に相当する2000円と高額でした。さらにこの時に、戸別訪問やビラ配布も制限する制度が取り入れられています。つまり、選挙権を拡大した代わりに治安維持法と供託金制度および選挙運動の制限によって、当時の無産政党(社会主義政党)の国政進出を阻んだのです。

 このときの精神が、現在まで引き継がれているわけです。前述したように有権者の資格制限になっていた納税額を少しずつ引き下げてやがてはゼロになったのにもかかわらず、戦後は公職選挙法を改正するたびに、逆に供託金の額を引き上げているのです。本来あるべき姿と逆行しています。

 いま選挙戦がたけなわで、今後の行方を見極める政策を大いに議論しなければなりません。しかし、それ以前に、市民が目覚めても立候補すら不可能に近い選挙制度を、早急に改めるべきではないでしょうか。

 それが、お任せ民主主義からの脱却になると思います。
(文=林克明/ノンフィクションライター)

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