断っておくが、頑張っている大学もあるし、先生もいることは筆者も知っている。筆者が知る限り、大学は悪貨が良貨を駆逐する世界で、優秀な先生はその他大勢の無能な先生から足を引っ張られる傾向にある。そして無能な教員が安住できるように、改革などを行わない無能な教員を総長や学長に祭り上げる。はっきり言ってしまえば、馬鹿が馬鹿を選んでいるのである。この結果、どう見ても日本の大学の経営や教員の質は全般的に下がっている。
こうした大学に金を渡しても、結局はドブに捨てたことになるということが言いたかったのである。特に今回のばらまきは、ベンチャーなどへの投資に自由に使ってよいという性格である。ベンチャーへの投資は新しい産業を起こしていくために重要であると考えるが、今の大学のガバナンスでは、到底まともな投資が行われるとは思えないのである。
事実、記事掲載後も、東京大学分子細胞生物学研究所における43論文の不正認定や、京都府立医科大教授の臨床データ偽装などが立て続けに報道された。どれも研究者としての倫理感に問題があるようなものばかりだ。こうした不祥事は氷山の一角なのではないか。
大学の「生態研究」で、とても面白い本があることを思い出した。2年前に出版された『キャリア妨害』(菊地達昭著、東京図書出版)という本だ。サブタイトルに「ある公立大学のキャリア支援室での経験」とあるが、読んでいけば、横浜市立大学であることがすぐにわかる。
本書では、大学経営が戦略性に欠け、ずさんで、そればかりか人間性にも問題があるような教職員が跋扈し、その結果、本来ならば若い学生が自らのキャリアを磨く場であるはずの大学が、学生のキャリア育成を妨害する場と化している実態が赤裸々に描かれている。
「前例主義」「形式主義」「性悪説」「人件費はタダ」「コスト意識ゼロ」という5つのキーワードから、大学運営の実態がいかに腐敗し、堕落しているかについて具体的な事例やエピソードも豊富だ。本書を読むと、大学の教職員集団は、規律や社会常識が働かない「無法地帯」「犯罪者集団」を構成しているのではないかと感じるほどだ。
著者の菊地氏は、大手電機メーカー人事部門での経験が豊富で、海外勤務経験もある。その経験を買われて横浜市立大学に転職し、キャリア支援の責任者として、学生の就職支援などキャリア開発に民間企業の発想を採り入れる改革を行ってきた。
菊地氏は退職後に『キャリア妨害』を出版したが、横浜市大での約6年間を「エイリアンとの共同作業であった」と書いている。企業の常識では信じられないことの連続でもあったということであろう。読むと笑えるが、これが最高学府の実態かと思うと、ぞっとする面もある。「頭脳の棺桶」とは、まさにこのことだ。
『キャリア妨害』の中から、いくつかの事例を紹介する。まずは「多すぎる起案のハンコ」についてだ。開示を急ぐ就職情報の掲示でも起案で決裁を持ち回り、民間企業では課長一人が判断すればいいような案件でも、内容によっては12個のハンコをもらわなければならないケースもあった。ハンコが多い理由は、チェックを強化するのではなく、「責任回避のシステム」であった。
あまりにも起案件数が多く、大勢でたらい回しにするため、重要な起案書が紛失するケースもあり、 eメールで「起案書が紛失して見当たりません。ご存じの方は誰々まで連絡ください」といった回覧が回るという。本来ならば担当者が持ち回りで決裁を受けるべき、経歴など個人情報が書かれたマル秘の非常勤講師採用の起案書が紛失したこともあるというから信じ難い。
●欠如するコスト意識
外部講師に出すペットボトルの水の購入や、土曜日にボランティアで後輩に指導するOB・OGに出す昼食の出前にも見積もりを取らなければならない。近所のパン屋が三文判を押して見積書を持ってきたが、社印がないと認められないと経理部門が言いだした。パン屋は個人営業なので、社印がなくて困ってしまった。本質より手続きを重視する姿勢の影響で、かえって労力がかかった。税金で給料をもらっていながら「人件費はタダ」という発想の「賜物」なのだ。
見積もりを取りながら、実際には高い買い物をさせられているケースもあった。インターネット経由で勝ったほうが安い事務用品等でも、大学が求める3点セット「見積書、納品書、請求書」を整えてくれる業者から、高くても買うというのだ。出張のケースでも、正規料金より安いパック商品があっても、「それ以上に安い商品があったら住民に説明できない」というおかしな理由からパック商品の購入は認められなかった。
実際、事務用品はいつも特定の1社から購入していたが、その業者がなぜか他社の見積書を一緒に持って来て、いつもこの業者の金額が一番安い額となっているのが不自然だったという。そのため、同社が他社から白紙の見積書をもらい、金額を書きこんでいるのではないかとの疑惑が上がった。
次回は、こうした大学のあきれた体質が、「架空発注事件」にまで発展した例を紹介する。
(文=井上久男/ジャーナリスト)