そんなゲリラ豪雨が、東京三大花火大会の一つであり、過去10年間で一度も中止や順延されたことのなかった隅田川花火大会を襲った。19時の開始間もなく豪雨となり、わずか30分で中止。多くの見物客がずぶ濡れのまま「帰宅難民」になる事態が起きてしまったのだ。
大会当日7月27日19時台の天気予報は「弱雨」ではあったが、大気の状態が不安定で、
局地的に雨雲やカミナリ雲が発生する可能性も指摘されていた。
こうした予報を受け、もし事前に中止が決定されていれば、多数の帰宅難民や交通機関の混乱が生じる事態を避けられたにもかかわらず、なぜ決行されたのか?
その背景には、容易に延期や中止を実行できない“大人の”金銭事情があるようだ。
巨額の開催予算と税金投入
まず、花火大会の予算はどの程度なのか見てみよう。東京都台東区や墨田区などの行政機関、地元の町内会の関係者らで構成される隅田川花火大会実行委員会事務局への取材では、12年度の予算は約1億5000万円と報じられている(12年7月5日付日本経済新聞記事)。予算の内訳は、花火の打ち上げ費用が約7000万円と最も多いが、その他にも警備費用に約3000万円、救護所のテントや仮設トイレの設置費用に同じく約3000万円と続く。警備費用やテントや仮設トイレの設置費用は、開催日が順延されれば、その分割増になることは十分に考えられる。
一方、収入面では、東京都、墨田区を中心とした地元自治体で約1億円の税金が投入される。これは、「他地域から来る観覧者が消費してくれることで地域経済の振興につながり、地元のブランド力を高めることができる」(大会事務局/前出記事より)といったPR効果を期待しているからだという。
事実、今年の大会の協賛にも名を連ねている東京スカイツリーでは、7月27日は特別営業として、17時30分から22時までは840名限定の特別営業を行い、その中には、帝国ホテル宿泊・ハイヤー送迎付きの1人8万8800円(大人・小人同額)の高額プランもあり、全て完売していた。さらに、前出の日本経済新聞記事からは、隅田川沿いのテラスや野球場で観覧できる有料の観覧席を設ける市民協賛金制度で集めた2200万円(1口5000~2万4000円の約4000口)や、当日隅田川を運航する屋形船からの協賛金700万円も大きな収入源であることがわかり、今年もこの収入額は大きくは変わらないとみられる。こういった暗黙のプレッシャーにより、簡単には大会の延期・中止を決断できなくなってしまったと思われる。
このように隅田川花火大会は、地域挙げての一大イベントであるとともに、巨額のマネーが動く場でもあるのだ。大会関係者は、祈るような気持ちでいたことだろう。安易な開催前の中止や順延は、周辺地域へ巨額な損失を与えてしまうことにもなる。その点で、ギリギリまで打ち上げを行い、このような周辺地域からの協賛金や特別プランに応えるという使命感のようなものもあったのかもしれない。その結果、天気予報を前向きに信じて、隅田川花火大会実行委員会事務局では、事前に中止する決断はできなかったのではないだろうか。
独占放送するテレビ東京へも配慮?
このような「断りにくい雰囲気」にトドメを刺したのが、テレビ東京の独占中継だ。
実は、テレビ東京の独占中継は、1978年の第1回からずっと続いている。この背景にあるのは、江戸時代から続いてきた両国川開きの花火が61年から77年まで、交通事情の悪化等で中断した後、今の「隅田川花火大会」のスタイルで再開するに当たり、積極的にテレビ東京が協力した経緯があるからといわれている。78年の初回テレビ放送の時に、「都の半公共的行事を一放送局が独占するのはおかしい」とNHKが実行委員会に申し入れたそうだが、聞き入れてもらえなかったことからしても、特別な関係があるといえるだろう。
それを裏付けるかのように、テレビ東京はスポンサー企業として、最も多額の協賛金を出資しており、12年には、スポンサー企業協賛金3600万円のうち、2100万円を出資している。その影響力というのは、かなり大きいといえるだろう。そして毎回、会場近くに本社があるアサヒビールがメインスポンサーとなり「アサヒビールスペシャル」として放送されている。
大会中止後は序盤30分の映像と12年の花火を放送することで、なんとか今年の番組は成立したものの、樹木希林や中村獅童、田丸麻紀らの芸能人をキャスティングしている以上、開催直前になって中止または順延をすることは容易ではなかったのだろう。
残った花火は全て廃棄処分。光ったのは、高橋真麻だけ?
負の連鎖が重なった結果、花火大会は30分で中止となり、2万発の花火のうち、1万5000発余りが残ったが、今回は雨による中止なので、ほとんどの花火が湿気ってしまい、もう使い物にはならない状態だという。金額にして、おおよそ4000万円が使い物にならず、廃棄処分となるのだが、この費用について、花火会社が負担するのか、それとも当初の予定通り実行委員会事務局が支払うのかは、今後話し合いにより決められるとのこと。
一方で、唯一の明るいニュースがある。それは、浅草中継ポイント担当のフリーアナウンサー・高橋真麻が、台風中継さながらに、浴衣をビショ濡れにしながらも、笑顔で中継したことで「親の七光を超越した“ド根性真麻”」と、業界各方面からも、ネット上でも、高く評価されたことだ。彼女の印象が爽やかに残った隅田川花火大会となった。
(文=大坪和博)